王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「私が夫と定めるのはただひとり、ナバ王国の王太子殿下だけです。あなたのご所望の統帥権は、私のサインと血判と共に彼に譲ってしまったの。今の私に、スタニスラバ海軍を動かす権限はありません」
ラナは冷めた目つきで彼女を見下ろす皇帝に怯むことなく、真正面からその視線を受け止めた。
理知を宿す海のような大きい瞳は、アルベルトには憎々しいほどいきいきと輝いている。
「私をどんなに脅しても王立海軍は手に入らないし、たとえ今から私と殿下の婚約を破棄させたって、統帥権は私の元には戻らないわ。スタニスラバとナバの間には、もはや打ち壊せない繋がりがあるのよ」
アルベルトの望みは、統帥権を持つラナを従わせてスタニスラバ海軍を思うままに操ることだったはずだ。
だけどもうそれは叶わないし、この誘拐も無意味だったことになる。
「ご理解いただけたかしら。ナバの王太子を敵に回すことは、スタニスラバを敵に回すと同義です。私の夫にも、故郷にも、決して手出しはさせないわ」
バルバーニが安易にラナを殺せなかったように、統帥権を持ったエドワードにはそう簡単に剣を向けられない。
彼の背後にはもはや大国ナバの王子という肩書きだけでなく、世界最強の軍事力があるのだ。
だからこそラナは、その力を彼に託した。
エドワードの側にはいられないとしても、好きな人を守るために。
それまで黙って話を聞いていたアルベルトは、深々と息を吐き出した。
「なるほど。王女はなかなか賢い小娘のようだ。これだから我が国では、女に知恵は求めぬのだよ」
皇座に座ったまま片手を振ると、後ろに控えていた兵士がアルベルトの前に跪いて盆を差し出す。
皇帝が手に取った細長い棒は、鈍く光るマスケット銃だ。