王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
■2■
半刻ほど前のこと。
エドワードはギルモア公国を縦に貫く回廊を栗毛の馬で南下し、港を目指していた。
頬を切る凱風が気持ちのいい日で、燦然ときらめく太陽は彼の翡翠色の虹彩を宝石のようにきらめかせる。
北の大陸には珍しいブルネットの髪と相まって、ナバ王国の王子はいつも以上に精悍で秀麗な青年に見えた。
空の青も草の緑も、絵の具で塗ったように目に眩しい。
なにをしていても王族の品格が漂うエドワードのいるところは常に一枚の絵画のように華やかだと、ナバの子女たちが囁き合うのも頷ける姿だった。
「殿下、そろそろ市街地へ差し掛かります。どうぞ馬車の中へ」
彼と馬を並走させる近衛師団の青年は、いい加減に護衛つきの馬車へ乗り込むようにと王子を促す。
蹄の音を響かせて彼らを追う一行は、ナバ王国の王家の紋章である火竜の旗を掲げていた。
エドワードは堅物な相棒をちらりと見やり、彼を挑発するように片眉を上げる。
「おいおい、副団長様が長くて忘れちまったのか? 俺はお前がロイヤル・ナバ騎士団勲章を授与したときの同期だろ。自分だけ一等騎士だと思うなよ、ライアン・ルセロ」
言われたライアンは琥珀色の左目の下にある古傷をピクリと動かし、部下たちには気づかれないように小声で毒づいた。
「ご自分の立場を忘れやがってるのはどちらですかってんだよ」
エドワードは彼の悪態を笑い飛ばし、ちっとも意に介さない。
今でこそ主従関係にあるふたりだが、彼らは20年来の友人でもあった。
「この回廊が我が国の領土であるとはいえ、安全が保障されているわけではありません。ナバに併合されたことをよく思わない者たちが、いつ殿下のお命を狙ってくるとも限らないのですよ」