王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
フベルトスはため息を吐いてラナの髪から手を放すと、すぐに彼女に背をむける。
男たちが部屋を出て行き、鉄のドアが閉められると、ラナはそのまま冷たい床に倒れ伏した。
震えは止まらなかったし、動悸も治らない。
両の目からはずっと堪えていた涙が止めようもなく溢れ出し、まだ近くにいるであろう彼らに嗚咽を聞かれないよう、両手で口を塞ぐだけで精いっぱいだった。
それは初めて直面する恐怖だった。
なにもかもを支配され、彼女の声など僅かばかりも聞き届けられない。
どんなに抵抗しても男の力には敵わないのだ。
これまでラナに触れたことのある唯一の男が、どれほど彼女を大切にし、優しく触れていたのかが今ならよくわかる。
エドワードはよくラナのことを『俺のもの』と言っていたけれど、本当に物のように扱われることがどういうことかを思い知らされた。
ラナは膝を抱えて身体を丸め、乱れた髪を直す余裕もなく、ただ悲しみと絶望に身を浸していた。
心を引き裂かれるような恐ろしさに望みのすべてを奪われ、身体中の水分を涙にして流してみると、ラナの中に残ったのはたったひとつの気持ちだった。
(エドワード様に会いたい)
なにもかもを削ぎ落とされても、それだけは彼女本人にさえ打ち壊すことのできない思いなのだと、ラナは初めて気づかされた。
それはラナが息をしている限り、きっと誰にも奪えない彼女の一部なのだ。
望んではいけないことだとわかっている。
ラナが望めば望むほど、それはアルベルトにとって旨い蜜となるだろう。
けれどどんなに叱られたって構わないから、もう一度彼の腕の中に帰りたかった。
強く抱きしめてほしかったし、名前を呼んでほしかった。
顔を合わせて、あの翡翠色の瞳に見つめてほしかった。
それは本当に叶わぬ願いだろうか。