王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
侍女のひとりが蝋燭に火を灯し、暗くて寒い廊下を進んでいく。
おそらくこの細い隠し通路を使って、フベルトスの待つ寝室へ連れていかれるのだろう。
ラナの前には明かりを持ったほうの侍女があるき、後ろにはぴったりとくっついてもうひとりが歩いた。
たしかに石の壁に囲まれた狭い一本道では、こうして挟まれたら普通の王女には逃げ道がない。
しかしラナは少しばかりお転婆な娘であったので、ただのふたりの侍女を振り切ることくらい簡単だった。
フベルトスが対面した彼女はラナのこれまでの人生で一番弱ったときだったということが、彼の不運である。
ラナは胸元に隠した小瓶をこっそり取り出すと、それを一気に口に含んだ。
そして勢いよく振り返り、後ろをついて歩いていた侍女の両頬をぐいっと引き寄せて、口移しに薬を流し込む。
侍女は目が飛び出んばかりに驚き、咄嗟のことに一切抵抗できなかった。
(びっくりさせてごめんなさい)
ラナはこの数日で何度も強引に唇を奪われるということを経験していたので、この手際の良さはエドワードの指導の賜物である。
媚薬を飲み下してしまった不幸な侍女は、それから急に自分の身体を抱きしめてうずくまった。
なんだか突然呼吸が荒くなり、とても苦しそうに喘いでいる。
異変に気付いた前の侍女が振り返って彼女に駆け寄ったが、呼びかけにまともな返事もできなかった。
(マクシムってば、気持ち良くなるだけの薬と言っていたのに!)
ラナは害のない薬だと思ったからこれを使ってみることにしたのに、媚薬を飲んだ侍女は大層激しく身をよじって苦悶している。
薬の使用方法を知らぬラナには知りようもないことだが、その液体は普通数滴ずつ口に含むもので、どんなに酔狂な者でもさすがに一度にひと瓶飲み干すほどには使わないだろう。