王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
壁は分厚く、崖伝いに越えるのも難しいだろう。
(せめて日が出ていれば、海を泳いで逃げ出せるのに)
時刻は夜の深まり始めた頃。
まだ城内は静かであったが、王女が姿を消したことはじきに知られてしまう。
朝日が昇るのを待っている余裕はなかった。
そのときふと、右手の木陰に何頭かのラクダが眠っているのを見つけた。
ラナが注意深く近寄ってみると、傍らに明かりの灯った大きな天幕が張ってある。
中には10人近い男たちがいる気配がしたが、豪快な笑い声と軽快なしゃべり口調はなんだかバルバーニの陸軍兵士には似合わなかった。
ラナは息を飲み、そっと中を覗いてみる。
なんとそこで宴会を開いているのは、彼女を攫ったマクシムたちの隊商なのだった。
「マクシム! シェノール!」
ラナは知った顔を見つけたことに嬉々とした声を上げ、天幕の中に滑り込む。
王女誘拐の報酬に酒と馳走でもてなされていた隊商の男たちは、目が飛び出るほどに驚いた。
「げえっ! 王女様じゃないか。こんなところでなにしてるんだい」
「マクシム、あなた私に嘘を教えたわね。あの媚薬という薬、とっても苦しそうだったわ」
ラナは憤慨してマクシムに詰め寄る。
「え、あれ使ったのかい? 誰と?」
「バルバーニの侍女とよ!」
マクシムはびっくりして声も出なかったので、そのことについては深く触れなかった。
たしかに、ラナとあの侍女はふたりで薬を使い果たしたことに違いはない。
ラナも微量を摂取しているはずだが、とにかく脱走のための緊張でそれどころではなかったし、彼女の身体はまだその薬の効力の発揮するところを知らなかった。