王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「そのような女性は嫌いだと言ったら、姫君はなんと言うのかな」
端正な口元にイジワルな笑みを浮かべ、思ってもいないことを嘯く。
それからラナがなにか言い返す前に大声を出して側近を呼び、突然王家の馬車を止めさせたのだった。
城で王子とその婚約者の到着を心待ちにしていた侍女頭のマノンは、内城壁の門をくぐった彼らの姿を目にして腰を抜かしそうになった。
「えっ、エドワード様! まあまあ、大変。道中、なにかよからぬことがあったのですね」
マノンは恰幅のいい身体を揺らし、血相を変えて彼らの元へ駆け寄る。
彼女は王妃亡きあと懸命に尽くして王子を育てた母親代わりのような者で、またはライアンと同じく彼のやんちゃに寿命を縮める被害者ともいえた。
そのエドワードが城を出立したときと同じように栗毛の愛馬に跨っていて、手綱を握る腕の中には可憐な少女が横抱きにされてちょこんと座っているではないか。
彼の婚約者のために用意された王家の馬車はもぬけの殻。
その装いからしても、エドワードが腕に抱いているのがスタニスラバの王女であろうということはすぐにわかった。
「ん? ああ、そうだな。王女を連れ去ろうとする盗賊がいたか。しかし用意されていた馬車はなかなか高価なものだった。誰か手を引いている者がいるはずだから、白状させないとな」
エドワードはひらりと身軽に馬を下りる。
ラナも彼に倣い、ローブの裾を掴んで飛び下りようとした。
本当は彼女もエドワードと並んで馬を駆けたいくらいだったのだが、さすがに正装であるドレス姿で足を広げて跨るわけにもいかない。