王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
『好奇心旺盛なのはけっこうだが、平和ボケは直してくれ。俺の知らぬところで、勝手に危険な目に遭ってはいけない』
そう言ってエドワードがラナの護衛につけたのは、ルザという名の近衛師団の若い騎士だった。
栗毛の天然パーマとそばかすに愛嬌がある反面、仏頂面で融通の利かない堅物である。
腕は立つが真面目すぎるとのことで、ライアンが気にかけていた部下でもあった。
エドワードはもしかしたらラナがこの無愛想な男を怖がるのではないかと思っていたが、やはりそれは杞憂であって、むしろ母国の目付役を思い出してすぐに懐いてしまったくらいだ。
王子にはほんのちょっと納得がいかなかった。
「ルザ、キティ。私、とにかくお城を一周してみたいわ。スタニスラバとはなにもかもが違うんだもの」
ラナはふたりを伴って部屋を飛び出し、内郭の至る所を歩き回った。
ナバは一年のほとんどを通して湿気が少なくからりと乾いた気候で、そのせいか空の青さが目に眩しいほどはっきりとしている。
この日も大陸に吹く風は微かな麦の香りを運んできて、結い上げられたラナの麦色の髪もそっと揺らした。
彼女の育った国には、城というものが存在しない。
島ひとつが巨大な要塞だったから、王女であるラナも比較的開放的な宮殿に住んでいたのだ。
ラナは庭園の草花や噴水も褒めはしたが、広い食料貯蔵室や井戸のほうを興味深そうに眺めていた。
海水路のあるスタニスラバには兵糧攻めというものが通用しないから、籠城を前提としたつくりにはなっていない。