王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「そっ、そうですね、あれはたしか北の山脈に凶暴な獣が出ると騒ぎになったときのことで……」
「いやいや、そんな話より、俺が3回目のギルモアの援護遠征に行ったとき……」
ラナは話のひとつひとつに相槌を打ち、目を輝かせて続きをせがむ。
これがおもしろくなかったエドワードは、王女の細腰に腕を回して強引に側に引き寄せた。
「こら、こいつらは後回しだ。挨拶しなくてはいけない客人は他に山ほどいる」
「しかし殿下、せっかくご友人の皆様がお話を聞かせてくださっているのに」
ラナが唇を尖らせて抗議すると、不機嫌な顔をしたエドワードが彼女の小さな鼻を指でつまんで黙らせる。
ラナはびっくりして鼻先を押さえた。
「きみは俺の妃だ、俺に従え。騎士団時代の話ならあとで俺がいくらでも聞かせてやるし、峡谷へだって連れて行ってやる」
エドワードの言い方はやっぱり横柄ではあったが、これに彼女が食いつかないはずがないということを、王子ももう知っているのだ。
ラナは飛び上がって喜び、彼の左腕におとなしく身を任せた。
「本当ですか? 嬉しい! 約束ですよ」
すっかりご機嫌になったラナの腰を抱いたまま、エドワードは友人たちに背を向ける。
去り際、肩越しに振り返った彼の口元には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
「相変わらず腹の立つ王子だなあ」
「でも羨ましいなあ、あんな姫様」
騎士たちは小声で文句を言いつつも、思ったより仲睦まじい様子のふたりの背中をあたたかい気持ちで見送ったのだった。