王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
ラナはエドワードに連れられ、夜会に招待されていた王国の貴族たちから次々と歓迎と祝福の言葉を受けた。
ナバへ来たばかりの彼女には当然のことなのだが、誰に会わされても知らぬ相手ばかりで、エドワードの紹介を聞きながら必死に顔と名前を頭に叩き込む。
(明日からしっかり勉強に励まなくてはいけないわ)
エドワードはゆっくり覚えればいいと言ってくれたけれど、ラナはもともと学ぶことが嫌いではなかったし、彼女は立派な王太子妃になるためにここにいる。
見たこともないものを目にしたり知ったりするのは好きだけれど、決して観光のために来ているわけではない。
この政略結婚が意味するところを、ちゃんとわかっているつもりだ。
そんな彼女の前にも、ようやく見覚えのある者たちが現れた。
「こちらはキャンベル辺境伯。代々王家の信頼も厚く、東の国境付近を治めているカサレス家当主だ。王立騎士団の二等騎士で、以前は俺にも剣を指導してくれた」
エドワードの紹介に合わせ、白髪混じりの男性が恭しく礼をする。
「お目にかかれて光栄です、王女殿下。ドナト・カサレスと申します。今朝はご挨拶し損ねましたご無礼をお許しください。こちらは娘のデイジーでございます」
彼は年を召してはいたが、貴族らしい風格と穏やかな威厳を併せ持った男だ。
ドナトの隣にいるのは、濡れ烏色の長くてまっすぐな髪を持った美しい女性だった。
この国の者は大半がブラウンやダークブロンドなどの色の暗めの毛質をしていたが、彼女ほど濃い黒髪は珍しい。
「初めまして、王女殿下」
デイジーは優雅な扇で口元を隠し、上品な身のこなしで膝を折った。