王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

「だって、この人は"ナバの火竜"だもん。火竜は妖精のシャナに恋をしてるんだよ」


すると店の中から花屋の亭主が飛び出してきて、おしゃべりな娘の口を慌てて塞ぐ。

あまりのことに気の毒なほど真っ青になった彼は、娘を胸に抱え込んだまま、地面に膝をついてひれ伏す勢いで王太子に頭を下げた。


「もっ、申し訳ございません! 娘はまだ7つにございます。この度の咎は、どうか代わりに父親である私にお与えくださいませ」


この騒動に通りの者たちは一瞬静まり返ったが、エドワードはすぐに顔を上げさせた。


「構わないさ。小さな子どもの言うことだ」


涙目の亭主は寛大な措置に何度も礼を言い、娘を抱いて店の中へ戻っていく。

これを目撃した市民は皆一様にホッと安堵の息を吐いたが、王太子の人となりを知っている城の者たちには、ほんのわずかな緊張すら抱かないほどの些細な出来事である。

ラナは不思議そうに青い目を瞬かせ、エドワードを見上げた。


「殿下、"ナバの火竜"とはなんですか?」


これまで彼女の質問には丁寧に答えていたエドワードだが、なぜか居心地悪そうにふいっと顔を逸らす。


「さあな」


しかしラナにとっては彼にだけ頼らなくてはいけない理由もこれといってなかったので、ライアンを振り返って同じことを訊ねた。

彼は特に躊躇することもなく答える。


「殿下の騎士団時代からの通称にございます。王家の紋章にも描かれておりますように、火竜はナバにおいて伝説の生き物なのです。殿下は恐ろしいほど腕の立つ騎士でいらっしゃいましたので、そのような通り名がついたものと」
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