王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「ねえ、マクシムはガフ・キャニオンを越えてやって来たの?」
火竜と妖精の伝説を聞いたこともあり、東の峡谷にすっかり心を奪われているラナは、声を弾ませて青年に問う。
「ガフって東にある峡谷のことかい? まさか。あんなところを越えようなんて、命知らずのやることさ。俺たちは商人だから、依頼がない限りそんな馬鹿な真似はしないよ」
「あら、そうなの」
エドワードとライアンがその峡谷を『偵察』したことがあると聞いていたので、すっかりそういうものだと思い込んでいたラナである。
(私が思っているより危険なところなのかしら)
けれどエドワードはたしかに連れて行ってくれると約束してくれたはずだ。
たとえ命知らずと言われても、彼が一緒なら大丈夫のような気がしてしまうのだった。
「それなら、キャンベル地方を通っただろう。道中、赤いオオカミを見たか?」
若い頃の行いを『馬鹿な真似』と称されたエドワードであるが、そのことについては聞かなかったことにする。
頭に洒落たターバンを巻いたマクシムは、はてと首を傾げた。
「赤いオオカミ? いいや。ナバといえば黒いオオカミだろう。火竜の遣わした守り神だと聞いてますぜ」
マクシムが笑って言う通り、峡谷から北の山脈にかけて生息しているのは、黒い毛並みのオオカミである。
伝説の火竜の守り神といわれていて、人に悪さをすることはほとんどない。
「そうか」
エドワードはぽつんと言って頷いた。