王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「だから俺の妃だって言ってるだろう! あいつは俺のものだ」
なにがあろうと、そのことは覆せない。
この婚約が破棄されれば国際問題だ。
だけどラナは、妃にはなってもエドワードのものにはならないと言う。
初めはその違いを理解できなかった彼も、ラナと過ごしたこの数日で、少しずつ彼女の意味するところがわかるようになってきていた。
ラナは命令されたからエドワードの妻になることは受け入れるけれど、彼女自身が心を預ける相手と望んで選ぶのは、エドワード以外の男かもしれないということだ。
「はいはい、左様でござんすか」
エドワードもラナも、自分たちがいつかは恋愛をするかもしれないということを、微塵も考えずに育ってきた身分の者だ。
大国の王室に生まれた以上、自由な結婚など望めない。
彼らの両親が子どもたちのことを大事にしていたからこそ、恋に憧れを抱かせておいて国の都合で伴侶を決めるような、残酷なことを避けたのだ。
初恋同士ほどじれったいものはないけれど、ライアンは歯痒い思いを抑えて静かに友人を見守ることにした。
ラナは彼女が閉じ込められたこの壁の中で一番のお気に入りの場所である城門塔の上に立ち、茜色に染まる街をぼんやりと見ていた。
鋸壁の間に頬杖をつき、遠くに波打つ麦の海を眺める。
どんなに目を凝らしても、かつての彼女が愛した本物の青い海は、もうラナの世界から消えてなくなってしまったのだ。
ラナは暮れていく日に取り残されるかのように心細くて、もう何度目かも数えていないため息を吐いた。
肩に羽織った木賊色のマントをギュッとかき寄せる。
彼女はがっかりしていた。
(私はどうして、もっと妃らしくできなかったんだろう。殿下を困らせてしまうとわかっていたのに)