王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

空が薄暗くなり始めた頃、小塔の見張りの兵士たちの交代の時間となった。

歩廊を渡ってきた近衛兵は、ラナの傍らに黙って控えるルザに耳打ちする。

伝言を聞いたルザは、複雑な表情でラナに言った。


「王太子殿下が、お身体が冷えるといけないので部屋にお戻りになるようにと、おっしゃっているそうです」

「そう。殿下のお部屋からはここが見えるのかしら」


城へ来て何日も経たない彼女には、まだ王太子が使っている部屋をすべて把握できていなかった。

この城の中にいては、彼女の逃げ場はどこにもない。

母国のヴィートはこういうことを心配していたのかもしれないと、今更になって思い知る。

ラナは静かに頷いて、沈んだ気持ちのまま自室へと引き上げていった。




■3■


翌朝、王都に滞在していたキャンベル辺境伯とその令嬢が領地に向かって出発した。

王太子はこの地方で被害を出している赤いオオカミの捕獲と処置のため、彼らと共にしばらく城を出ることになる。

婚約者として彼を見送るラナが深く考えずに選んだのはボトルグリーンのドレスで、それが彼女の生家である王室の公式カラーであったこともあり、侍女たちは覇気のない王女を大層心配していた。


「まあまあ、ラナ様。お顔色が優れませんわ。キティ、王女殿下はお身体の具合が良くないのではありませんか」


侍女頭のマノンは、快活な少女の意気消沈した姿を見てびっくりした。

好奇心いっぱいにキラキラと輝いていた青い目はどんよりと曇り、大きな瞳を囲む長い睫毛は力をなくして伏せられている。
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