王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

ラナが側近の名を呼んだので、エドワードの耳はピクリと反応した。

そういえば、彼はまだ一度も名前を呼んでもらったことがない。

ラナは勢い余ってライアンの両手を握り、喜びのあまりそれをブンブンと振った。


「ええ。このことに関しては、私が責任を負います。城の近衛兵にも伝えておきますから」


ラナの無邪気な反応に、さすがの堅物ライアンも眉尻を下げる。

それはいつも、エドワードだけが独占していた彼女の屈託のない笑顔だ。


「まったく。あいつはいったい誰の妻なんだよ」


エドワードは思わず、馬車の中でひとり不満を漏らした。

マノンもキティも、ルザもライアンも、皆が彼女を慕い、味方している。

ラナはエドワードの婚約者としてナバへ来たはずなのに、彼を追い越して他の者が次々にラナと心を通わせていく。

エドワードだけが、彼女の涙の理由に気がついてやれなかった。

しかしラナは彼の妃だというのに、なぜエドワードが一番遠くから指をくわえて見ていなくてはならないのだろう。

ようやく馬車が動き出す準備が整うと、ラナはあんなにこだわっていた見送りもそこそこに、ほんの少しその後ろ姿を見届けただけですぐに城内へ引っ込んでいくではないか。

ライアンを無理やり馬車の中に引きずり込んだエドワードは、不機嫌な顔で彼を問い詰めた。


「おい、あいつになにを吹き込んだ」

「さあ? こればかりは、私とラナ様だけの秘密です」

「この野郎、不敬罪で地下牢にぶち込むぞ!」


エドワードが悔しそうに鼻の頭に皺を寄せるのを、ライアンは勝ち誇った気分で見やった。

ラナの話題はこの先、普段ライアンの手を焼かせるエドワードへのいい脅しになるかもしれない。
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