王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

半年前から突如として目撃され始めた赤いオオカミが外来種だとすれば、数が一向に減らないのにも合点がいく。

何者かがあのオオカミたちに麻薬を打ち、凶暴にさせてこの地に放っているのだ。

キャンベルの者たちだけでは詳しい検査はできなかったし、国内の者が黒幕である可能性も捨て切れなかったので、ついに国王に相談を持ちかけるに至ったのである。


「まあ、黒幕の正体はほぼ割れていますが、まだ証拠がありません。使用されている薬草は遠い南の大陸で栽培されるものだそうです」


ライアンが言うと、天幕の中にはしばらく沈黙が漂った。

エドワードは小さな声で呻くように呟く。


「奴らは人間だけじゃ飽き足らないんだ。ついに動物にまで薬を使ってやがる」


みんな、誰がこれを仕組んだのか知っている。

もう10年も前のことになるし、彼の死を乗り越えたつもりではいたが、デイジーはどうしても俯かずにはいられなかった。

在りし日にエドワードやライアンと同じように騎士の制服に身を包み、剣を振るっていた彼の後ろ姿は、この10年幾度も彼女の心に思い起こされた。

彼は騎士団の教えの通り、守るべき者のために命を賭したのだ。

エドワードが沈痛な空気を振り切るように立ち上がり、デイジーの肩をポンと叩いた。


「オオカミのほうはひと段落したし、久しぶりに奴の顔を見てくる」

「ご一緒いたしますか?」


デイジーは振り返り、世界で一番憎み、慕っている男の背中を見た。

ふたりの間に存在するのは、社交界の噂好きの令嬢たちが囁き合うような、甘く切ない愛情ではない。

この世でお互いだけが、最も深いところにある傷に手を触れることができ、そのまま傷口をえぐってしまうような相手だ。
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