王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
エドワードは肩越しにひらひらと片手を降り、ライアンを伴って天幕を出ていった。
■5■
エドワードとライアンは、カサレス家の屋敷から少し離れた場所にある小高い丘を登り、共同墓地の中をゆっくりと歩いた。
ふたりが10年に一度あるかどうかといわれる一等騎士の勲章を授与し、エドワードが父を手伝って政務に関わるようになってからは、お互い忙しくてなかなかここへ足を運べずにいたのだ。
彼らの友人が眠る墓には、エドワードの騎士団時代の愛剣が捧げられている。
名前が刻まれた墓石の前の花壇は今でもよく手入れされ、今年も色とりどりの美しい花を咲かせていた。
10年前から、彼だけがなにも変わらない。
ハサン・カサレス。
それがエドワードとライアンの友人の名で、デイジーの兄の名で、いずれキャンベル辺境伯を継ぐはずの男だった。
エドワードは両手を強く握りしめる。
かつてハサンの命を奪ったものが、今度は彼の故郷を蹂躙しようとしている。
「赤いオオカミを放っているのは十中八九かの国の者でしょう。王女殿下を攫おうとした盗賊も、あちらの国の出身だったとわかっています。しかし確実な証拠のない今は、首謀者を叩くのは難しいかと」
ライアンの低く抑えた声に、エドワードも小さく頷いた。
「ああ、わかってる。オオカミを捕まえて、あの野盗を締め上げただけでは解決にならない。計画通りに進めよう」
本当なら、彼の友人の故郷や婚約者を脅かそうとする者のところへ、今すぐ乗り込んでその剣で叩き切ってやりたいのは山々なのだ。
だがエドワードはもう、若く無鉄砲だった頃の彼ではない。
今では力と、それに見合った地位を持っている。