王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
そういうわけで大量のオオカミを入れて放しておくための大きな檻を作り始めたところなのだが、もうすぐ日が暮れるので、作業は明日以降に持ち越しである。
屋敷の使用人たちは総出で夕食の準備をし、村人たちは自分の家へ帰る時間だ。
それぞれが適当に作業に見切りをつけ、賑わい人の行き交う庭の隅で、デイジーはひたすら木を削っている男を見つけた。
檻の材料になるのか、残ったオオカミたちを捕まえるときの武器にするのかはわからないが、村人の格好をした男が鉄の短剣でそれを切り出していたので、彼女は不思議に思って声をかけた。
「あなた、ノコギリかヤスリなら向こうにあるわよ。それに、今日の作業はもう終わりね」
麦わら帽子を目深に被った男は手を止め、豪奢な飾りのついた短剣を胸に抱く。
「へえ、私にはこれで十分でございますよ、お嬢様」
デイジーは微かな違和感を抱き、首を傾げた。
見たことのない顔である。
このような男が、彼女たちの村にいただろうか。
彼女がさらに距離を詰めて問いかけようとしたとき、屋敷の門をくぐり、馬に乗ったエドワードが前庭に飛び込んできた。
なにやら庭先が騒がしくなる。
「城へ戻る! 支度を急げ!」
彼は馬から飛び下りると、栗毛の愛馬と出立の用意をするようにと、側の近衛兵に言いつけた。
デイジーでさえ、彼がこんなに急に王都へ戻るとは聞いていない。