王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「あなた、出身はどこ?」
「私の出身でございますか? ナバの名もなき田舎町にございます」
「では、どうしてスタニスラバの王都に3つの塔が建っていると思うの? ナバ王国は半年前まで内陸国だったから、軍艦は持っていないはずね。それなら、自分で国を出て航海をしたことがあるの?」
王女の好奇心に溢れた問いかけに、男は一瞬たじろいだ。
しかし微笑みは崩さず、腕を差し出して答える。
「いいえ。この辺りの漁師が話す単なる噂を耳にしたまでにございます。さあ、王女殿下。お手をどうぞ」
動揺を見せることもなく、無難で失礼のない対応である。
ラナはおとなしく彼の手を取って馬車に乗り込むべきだとわかっていたが、やっぱり気になって首を傾げた。
「でも、それにしても不思議だわ。北の大陸とスタニスラバとの間にはジゼル海峡があるから、たとえよく晴れた日でも、あの霧の向こうに島が見えることはないと思うの。この辺りで噂になるほど塔のことが知られたりするかしら」
今度は青年も言葉を返さない。
ラナは出しかけた手を引っ込め、更に言い募った。
「塔を確認できるほど島に近づくには、海峡のない南側を渡るしか方法はないはずね。でもこの国の漁船や商船は、あの辺りを通らないわ。南の海を通っているのは、東の帝国の貿易船か、近頃海を騒がせている海賊船くらいだもの」
青年はその口元に貼りつけた笑みを決して崩しはしなかったが、鋭い双眸に畏敬と歓迎の意はもう見られなかった。
ラナに向かって差し出していた手を戻し、ゆっくりとした動作で腰のサッシュベルトを辿る。