王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「驚いたな。そこまで言い当てられるとは、王女様は思ったより賢いらしい」
ラナは不穏な気配を感じ取り、ローブの裾を持ち上げる。
男の微笑みが獲物をいたぶる嗜虐的なものに変わった瞬間、船の方からヴィートの怒号が聞こえた。
「ラナ様、お逃げください!」
赤い制服の男が腰の剣を抜いたのを合図に、馬車の影から数人の男が飛び出してくる。
近くの見物人の中にも剣を持った者が紛れ込んでいて、ラナはあっという間に囲まれてしまった。
従者たちが慌てだし、民衆が悲鳴を上げてパニックに陥る。
「さあ、王女様。痛い思いをしたくなかったら黙って馬車に乗るんだ。『生け捕りにしろ』とのご命令だが、『傷をつけるな』とは言われてない」
男たちはニヤニヤと余裕の笑みを浮かべ、子ウサギを追い込むようにじりじりと近づいてくる。
ラナは一気に混乱し始めた港町の喧騒をどこか遠くに聞きながら、生まれて初めて向けられた刃に怯むこともなく、思ったよりも冷静に考えた。
(この人たちはナバ王国の者ではないんだわ。私がここで連れ去られては、大変なことになる)
ラナの結婚は、スタニスラバとナバの同盟を完成させるための最後のピースだ。
この場合最悪なのは、彼女が捕えられて両国の同盟が決裂すること。
父は烈火のごとく怒るだろうし、引き渡し時に起きたことだから、責任の所在を問うて戦争の火種になってもおかしくはない。
ナバ王国としても、何者かに王太子妃を拐かされて奪い返せなくては王家の沽券に関わる。
どちらにしろ、争いが起こることは火を見るよりも明らかだ。