エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
「ここが俺んち」
ただいま、と扉越しに中に声をかけながら、アラキさんは自分のカギをドアノブに差し込む。
「帰ったぞー。……さ、遠慮しないで入れよ。狭いとこで悪いけど」
促されて、私は開いた扉の中に入った。
「おじゃましま……」
(……え?)
家の中にいるだろう人たちに笑顔であいさつしようとして、言葉が途切れる。
家族で住むには狭すぎる、ワンルームの部屋。
床にはアラキさんのものらしい男物の衣類やアルコールの缶が散らかっている。
壁ぎわのシングルベッド。
寝乱れたシーツの上に直接置かれた、吸殻のつまった灰皿……。
薄くタバコのにおいの漂うその部屋には、誰の姿もなかった。
子供や女性の暮らす気配自体が、感じられなかった。
これじゃまるで、アラキさんが一人で住んでるみたいな―――。
―――ガチャン。
私の背後で、扉のカギが閉まる音がした。