エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜

私を振り払う細い腕に、光るナイフの切っ先、流れる赤い色―――


ねえさんに振り払われるまでは現実にあったできごとだ。

そこから先は、すべてただの夢。

だけどあまりにはっきりと見た夢だったせいで、そんな過去が本当にあったような気がしてきてしまって……。


『アンタのせいで』


気を抜くと耳の奥でリピートされ始めるあのおそろしい声を、ブンブンと頭を振って追い払う。


(しっかりしてよ、私)


夢なんかで落ち込んでる場合じゃない。

こんなことに気を取られているから―――今日もマジュへの治癒はほとんど進まなかった。


それを考えると、また別の種類のユウウツが心にのしかかってくる。

私が治癒を行ったあと、マジュの「目覚めの兆し」をチェックするのが看護婦のルイさんの仕事だ。

あの事件の後からマジュの容態がほとんど変化しなくなったことに、彼女はとっくに気付いているだろう。

そういう時もあるだろう、と許してもらえるには、あまりに膠着状態が長くなりすぎた。

そろそろハルヒコ様に報告が行くかもしれない。

そうなったら、彼は私をどうするだろう。

優しくて、でもマジュのことがこの世で一番大切なハルヒコ様は……。

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