エメラルド・エンゲージ〜罪の葉陰〜
再び耳を押し当てた扉の向こうで、私がここにいることなど知る由もないルイさんの話は続く。
「……そうね。ハルヒコさんはここのところ留守がちなのよ。
そう、リイナさんの昔のことを調べているらしくて。
……いえ、生家ではなくて、花街にいた頃のことが知りたいようだったけど……」
(えっ……!?)
ドクン。
聞こえてきたその言葉に、心臓が大きく跳ねた。
「あの事件の犯人……トヨシマとか言ったかしら、リイナさんが花街にいた頃の知り合いだったんですって。
そのとき恋人だった娼館の女性がリイナさんに殺されたんだって、取り調べでずっと言い続けているらしくて……それで……ハルヒコさんは……」
ルイさんは話しながら部屋の奥に移動したのか、途中から声が遠のいて聞こえづらくなる。
私は必死に耳に意識を集中させて、言葉の続きを聞き取ろうとした。
だけどうまくいかなかった。
ドクドクと猛スピードで打ち鳴らされる自分の心臓の音ばかりが、警報音みたいに耳の中にこだましていた。
「……ええ、……そうですね。それではまた……」
通話が終わったらしく、そこで声が途切れた。
私はしばらく呆然と扉に寄りかかっていた。
ルイさんの気配が扉の近くまでやってくるのを感じて、ようやく我に返ってその場を後にする。