好きになるまで待ってなんていられない
ちゃんと仕事してちゃんと生活をしよう。基本通りに暮らしていこう。
避ける事はせず、いつもの時間に出る。いつものように挨拶をする。
職場では今まで通りにしよう。…職場で女になっていてはいけない。なんならホルモンの調整でもしようか。男性ホルモン、足りないなら足そうか。
…脱線してはいけない。だけど、出来るならそうしたいくらいだ。
あいつは普通だった。
こんにちはと言ったら、こんにちはと言った。
私も今までみたいに俯いたりはしなかった。逆にこれは普通じゃない態度になるのかな?
あいつは最初の…何も知らない整体院の人。
私は昼過ぎに出勤する隣のアパートの住人。
日曜。一人になった私は、結局、寝て過ごす事になった。
驚いた事に、気がつけば、昼夜が解らなくなる程眠っていたのだ。
身体が熱いと知っていたあいつは、帰って行った。
別に…部屋に来たことがなんの目的だったのか、そんな事は深く詮索しない。
だけど、…何も無く、よく眠れたと言って帰って行った事は、私の身体の調子をよく知っていたからではないかと思った。
「成美、ちょっと」
「はい」
衝立の内側、先に入った社長は鍵と二枚のカードを手にしていた。
…これが意味するモノ。
「あー、…取り敢えず座ろうか」
「…あ、はい」
座った途端、私の腕を取り、徐に手の平にそれらを乗せた。
「俺の部屋の鍵と、カードだ。こっちは乗り物を利用する時、こっちは買い物をする時に使ってくれ」
「社長…あの」
「当分は大丈夫なようにチャージしてある。無くなりそうになったら早目に言ってくれ」
…。
「金曜は俺と成美では退社時間が違う。だから、先に入れるよう鍵を預ける。成美の帰りは、きっかけが無いと帰り辛くなるから、部屋から帰る時間を決めておこう。10時…、22時だな。時間が来たら帰る、それでいいか?
俺の晩御飯にかかる費用は、全てこれで支払ってくれ。行きも帰りも公共交通機関を利用してくれ。タクシーでもいいぞ。
一緒に食べるからって、自分の分の費用を別で支払おうとするなよ?二人分が俺の晩御飯の費用だ。送って行かないし、迎えにも行かない」
「社長…」
「土日は勿論俺は居る。いつもいつも、留守に入るような事はさせないから」