好きになるまで待ってなんていられない


コツ、コツ、コツ…。はぁ、ちょっと遅くなったわ。
ん?遅くなったけど…居た。

「こんばんは」

「よ、お帰り」

「……ただいま」

遠くから既に視線は感じていた。
階段を上がった。…あ゙。コツコツ駆け降りた。

コツコツコツコツ…。足早に前を通り過ぎる。

「あ、おい、どうした」

「忘れ物した!」

「会社にか」

「あ、うん!」

なんて事。パソコンを忘れてくるなんて…。はぁ。こんな事初めて。…老化?
更に早足で帰って来た道を戻る。


「なあ」

「え゙?」

…直ぐ後ろで声を掛けられた。

「近いのか?あんたの会社」

「近い!徒歩で行ってるでしょ?」

…ついて来てるの?

「送ろうか?」

「いい」

「…そうか」

…ん?

「おっと、急に止まんなよ」

背中に当たりそうな位置で止まったようだ。

「て、いうか、ついて来てる?」

振り返って言った。

「あ…。流れ?帰りは今よりもっと暗くなるし、女一人、危ないだろ?」

…歳、食ってますけど?

「近いし大丈夫。30分もあれば往復出来ますから」

「ふ〜ん、そうなんだ。そこまで言うなら、いいんだな?気をつけろよ?」

「…うん」

ちょっと可愛く無かったかな。多分、一緒に行ってって言ったら行ってくれたはずなのに。
はぁ、今出た会社にまた戻るなんて…。
でも、置きっぱなしにするなんて有り得ないミス。…馬鹿。ホルモン云々より、もっと基本中の基本よ。
まだ、誰か居てくれるといいけど。
今日は全体的に割と早く終わりそうだったし、電話入れて行った方がいいかな。
そうよ。戻って誰も居なくて入れなかったら意味が無い。

会社に電話……出ない。
えー。どうしよう。…最悪。

…社長。………迷ってる場合か。社長に電話を…。

出て…、…ん?

「成美」

社長…。

歩道に車が寄せられて、停まったと思ったら、バッグを手に降りて来た。
コンと頭に乗せられた。

「痛っ」

これ…思ってるより、衝撃はあるんですけど。

「社長、今、電話してたところだったんです」

「ん。デスクの上に置いて帰る準備をしておいて、手に持たない奴が居るんだよなぁ。こんな大事な物。要るんだろ?」

…。

「すみません、有難うございます。今、会社にも社長にも電話をしてたところで」

「ああ。なあ、まだだろ?飯」

あ、…。

「はい」

「じゃあ、今からつき合え。このお礼にだ」

もう、助手席のドアは開けられていて、パソコンのバッグは後部席に置かれていた。

「断れないぞ?大丈夫だ。飯だけだ」

「はい…」

飯、飯って。何を言ってみたところで、きっと無駄な抵抗だ。
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