好きになるまで待ってなんていられない
仕方なくシートに座ると、まるで拉致られたように車は直ぐに発進した。
歩道には整体院に帰りかけているあいつが居た。追い越した。
…こんなのって、なんか嫌。
「あの男は?」
「えっ…あ、隣の、アパートの隣の整体院の人です」
「そうか、今は整体院になったのか」
「あ、はい。はい、ちょっと前に、はい」
「昔は、なんだったっけ、…そう、ギフトショップみたいな雑貨屋だったよな」
「はい」
閉店して暫くそのままだった。
「長く経営するには場所が良く無かったのかも知れないな」
近くに量販店が出来てしまったから…。閉店した理由は知らないが、厳しくなったのかも知れない。
「あいつか…」
「え?」
「成美の」
…成美のって、…物凄い含み。
ラーメン屋さんに居た。汁無し坦々麺をカウンターに並んで座って食べていた。
「辛くないか?大丈夫か?」
「大丈夫です、辛いけど美味しい」
「そうか、それならいい」
…。
最初の話は続け無くていいのね。聞かれても、別に恋人とかではない。…関係は持った人です、ドキドキする人です、それで通じるかな。
「社長?今日は社長も早かったのですね?」
「ん?ああ。いや、成美が忘れ物してるから帰る事にしたんだ」
「えーっ、では、中途半端に切り上げさせてしまったのですか?」
「フ。そんな困る程の事は無い。成美に直ぐ連絡したら良かったくらいの事を、しなかっただけだ。こうやって誘えるかと思ってな」
…そうよ。気がついたなら、ちょっと連絡してくれていたら、直ぐ引き返していたのに。
帰る段階で置いてるって知ってたなんて…。
…謀ったな、オヤジ。
「成美の肌艶の元か…」
「え゙」
話が戻ってる。返事なんてしないから。
「成美より若そうだったな、なあ、若いんだろ?いくつなんだ?」
「…知りません」
「知らない?本当に知らないのか?それとも惚けているのか?」
「知りません」
「…どっちの知りませんなんだか、解り辛い返答だな…」
だって知らないから知らないって言うしかない。
「本当に知らないんです。…若いと思います」
「俺、心なしか、さっき強い視線を感じた気がしたんだけど。敵視されたってことかなぁ、なあ成美」
「知りません」