好きになるまで待ってなんていられない


店を出た。

「成美、ちょっとだけドライブしよう」

…この先、ちょっとだけ何々しようとか、増えていかないでしょうね。
考えて見たら、社長は早く家に帰る必要も無くなったんだ。帰ったら一人…。暗い部屋に入るのは寒々しい。

「はい、まあ…ちょっとだけなら」

「三十代は、まだ気が強いか…」

「え?」

「微妙に揺らぐ年齢だろ?二十代では気にならなかった事が気になる。成美は…四十になるから、三十代で持ち堪えていたモノとも闘わないといけないのか…」

「…解ってます、そんな事。敢えて言わなくてもよくないですか?別に、必死に抗ってなんかないです」

「ハハハ、そんな反応をするところもだ。気が強い。まだ諦め切れないモノがある証拠だ。まともに受け止めてしまう。
俺となら、自然体で居られるだろって話だ…。三十代には三十代の、四十代には四十代の良さがあるって事だ。今まで成美が俺の前で女を前面に出した事があったか?」

「具体的には…無い、…と思います。女というか、まあ、普通にしてると思います」

「だろ?だけど魅力的な女だ」

…。それは…人によると思う。好みの問題でしょ?

…。

「ちょっとでも自分より若い奴と居るには、辛い事もある。無いとは言えないだろ?」

どれだけ私に年齢を認識させるつもり?

「俺は構わない。ドキッとしたいんだろ?新鮮なんだろ?自分の反応が」

何、人の事、冷静に分析してくれてるんです?俺は構わないって何?

「俺はもう成美を新鮮な気持ちでドキドキさせられないだろ?」

自虐ですか?

「慣れてしまってるからな。いろんな面も見てる。
だけど満足させる事は出来ると思うぞ?オヤジは心を充たしてやれる生き物だ。どんと来いって感じでな。心の動きに敏感になれる。長く生きて来たからな。成美の気持ちに寄り添える。特別な事じゃない。興味があって好きな相手になら、誰だってする当然な思いだ」

…何ですか?

「ドライブって言ったのに、何、ついでに狡いこと言ってるんですか…」

「ドライブって言ったら、二人っきりになりたいからだ。話がしたいからだ。セットだろ。黙って運転だけするか?
オヤジだからな。若い奴と同じやり方で張り合ったところで、勢いに負ける。時間は掛かってもジワジワ染みる事をし続けないとな」

…。

「…構わないよ。好きなだけ恋したらいい」

…社長が許可する立場ですか?私の事です。…反感が芽生えます。

「成美は俺の事が好きだ。ずっと昔からな。それは今も変わらない。
あの男とのような鮮烈さは、もう無いかも知れないが、成美は俺じゃないと駄目なはずだ」

?!……。はぁ。…、何を、本人を目の前に代弁しているのよ。何を植えつけようとしてるの…。

好きだって思い、隠せてなかった、解ってたんだ…。


「お、着いたぞ」

…。

「どうだ…、これは俺の呪縛だ…」

あ、…。こんなのは…狡い、…エロオヤジ…。ん、…んん。ふ。坦々麺味の長いキス…。

「フ。本当に呪縛されたのか?部屋まで送ろうか?」

…はっ、あ。ボーッとなってた。唇はとうに離れていたのに…情けない。
惑わせないで…。

「だ、大丈夫です」

逃げるようにドアを開け、慌てて降りて尻餅をついた。

「成美!大丈夫か?」

社長も慌てて降りて来た。

「…馬鹿、そんな状態で急に降りる奴があるか。腰、強く打ってないか?大丈夫か?」

…もう。身体がいう事を聞かなかっただけ…。

「社長のせいじゃないですか、こんな…」

馬鹿みたいに甘いキスをするから…。
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