好きになるまで待ってなんていられない
「それで?」
…初めてだ、二人でこんな話になるなんて。
「好きにしろなんて言われて、誰かに恋してるんだ」
え…貴方以外に居るとでも?何…この言い方。きっと意地悪してるんだ。
…。
「あんた誰に恋してるの?」
…意地悪で押してくるんだ。
「さあ…知らない」
「ふ〜ん。知らない奴なんだ」
「本当に…知らない。名前も、年齢も、誕生日も…何も知らない人だから」
「ふ〜ん。知ってる事は何も無いんだ」
「ある。…ある。少しは知ってる事もあるもん」
…。フッ。
「…煙草をよく吸う人」
…。
「だけ?」
「ぇえっ?」
「もう無いのか?」
「ぇえ…、急にそんなに聞かれても。…整体師」
…。
「どこの整体師」
「隣の…」
「どこの」
「私の住んでるアパートの、隣の…整体師…」
「…誰?」
「………この人」
目の前の男を小さく指差した。
「…ふぅ」
…、あ。缶コーヒーを取り上げられ、ギュッと抱きしめられた。
「本当に好きなのか?」
…あ、ドクドクしてる。凄く煩い…。
「…うん。…でも、でも私ね…」
ぁ、…。唇、ちょっとだけ触れた。
「恋してるんだろ?好きなんだろ?
だったら余計な情報は欲しくない。
なんでも正直に言わなくてもいい。…男だから、聞かなくても解る事もある。だから言わないでくれるか」
「…うん。…でも…私はね…」
「構わない。…構わないから。だって好きなんだろ?俺の事が」
「…うん。ずっとドキドキしてる」
…。
「五十嵐慶而」
「え?…いがらしけいじ?」
「ああ、俺の名前。慶而でいい。歳は32だ」
「えーっ!…32歳…な、の?」
…若い。
「32じゃ駄目なのか?」
身体を離して問われた。
「駄目とか、そんなんじゃ無い。……若いよ、…凄く若い…そう思っただけ」
「はぁ…あんたは?」
…やっぱり…言う番よね?
「39…」
はぁ、駄目だ…現実は恐すぎる。
「違うよ」
「え?違わないよ?正真正銘39だもの。嘘ついても仕方ないもの」
厳密に言えば、もう40になると言ってもいいくらい。
「違う。名前を聞いたんだ」
…名前か。って、年齢の事は何れ避けられる話じゃないじゃない。
現実、7歳も違うんだよ。
…。
「…はぁ、もう、…ごめんなさい。騙してた訳じゃ無いけど。…嫌、よね。
こんな年上が…。呆れたでしょ?
何恥ずかしがって、…勿体振ってるんだって」
……惨めになるだけだ。
だから年上をからかうもんじゃないって、自分でも最初に言ってたじゃないの…。
馬鹿ね…。こんなになるまで現実から目を背けていたなんて。
「なぁ…あんた、名前は?」
もういいよ。悲しくなるから。
「…聞かなかった事にして」