好きになるまで待ってなんていられない
「なあ、灯。まだあいつと上手くいってるのか?」
「いってますよ?今、楽しくなくて、いつ楽しいんですか。負け惜しみじゃ無いですからね」
「じゃあ、もうちょっとだな」
…。
「俺は長くても気持ちがもつのは三年だと踏んでるけどな。
それ以上は…無いな。
あっちは益々男盛りで引く手数多だからなぁ。
灯ちゃんは、……だからなぁ」
「あー、もう、…煩いです。今ので充分傷つきました。
現実は言われなくても自分が一番解ってますから。
余程鈍くなければ嫌って言われる前に雰囲気で解りますから…」
そうなったら私から言い出さないと駄目だろう。
…。
「傷ついて、打ちのめされて、やっぱり駄目だったかって、出戻って来い」
「…出戻りって。一度も嫁いで無いんですけど?」
ここは実家ですか?
「馬鹿、五十嵐とごにょごにょしてる事から俺のところに戻って来るんだから、出戻りって言ったんだ」
「なんで…基準が社長なんですか…」
ごにょごにょって表現も…本当、最低なんですけど。
「それは灯は俺を好きだから。
深いところでずっと俺だから。
俺じゃないと駄目だから」
…。
「参ったか」
別に参らないけど。
言葉が出なかっただけです。
…負け惜しみじゃないから。
「新しい部屋は灯も一緒に見に行くぞ」
「はい?」
「広すぎず、狭すぎず、二人で過ごしやすい部屋。何れ一緒に住むんだからな〜」
…自分の世界に入り切るって、凄い。
「あんまり部屋数は無い方がいいなぁ…。
いつも灯と居られる方がいいから、狭いくらいの方がいいな。
灯は荷物少なそうだし。
2部屋もあればいいか…な?」
…。
一人で見に行って。
そして案内してくれる不動産屋さんの若い女子従業員に惚れられろ。
そして…ごにょごにょすればいい。
…。
「社長、そろそろ帰ります」
後片付けも終わった。エプロンを椅子に掛ける。
「うん、じゃあ送るよ」
「はい、有難うございます」
「あれだな、ここでバスを暫く待つくらいなら、家に居る時間を長くしよう。
バスが…10時30分なんだから、25分に出たら間に合うだろ」
「じゃあ、来る時間もずらします。
8時半に来ます」
「フ…強情だな。別に長く居たって問題無いじゃないか…。
うー、寒いな。夜は冷えるようになって来たな」
「そんな薄着で出て来るからです。…もう」
肩に掛けてあったショールを社長に掛けた。
「もう、帰っていいですよ、大丈夫ですから」
「馬鹿、その気の緩みから、何かあったらどうする。
取り返しはつかないんだぞ。ちゃんと見送る。
夜はな、女っていう事は解っても、年齢までは解んないんだから。うっかり襲われる事もあるんだ。成美だって危ないだろうが」
どいつもこいつも……このぉ…後ろから撲殺して差し上げましょうか?
「…解りました、…有難うございます」
あ、…また、こんな事を。
後ろから被さるように抱きしめられた。
「寒くないか?こうしたらどっちも寒くない。温かいだろ?
俺を気遣って風邪をひかす訳にはいかないからな」
はぁ…たまには、最初から逆らわないでいてみようか。これはあくまで社長の好意ですから。
「…有難うございます、大丈夫です」
寒くないかは後付け?
大人だから、なんの恥ずかしげもなく出来るのかな。
気持ちのまま?
「成美、本当の意味で大人になったら、妥協する事を求められる事が多い。
自分の気持ちでいけてる事があるなんて、幸せな事だと思え。
だから、後悔の無いように思い切りすればいい」
社長…。格言のようにも聞こえます。
見守られてる感じです。
なんですか?実は前世、私の父親ですか?