好きになるまで待ってなんていられない


あ、バスが来た。

「では、おやすみなさい、…また、明日ですね」

「ああ。部屋に着いたら忘れず連絡を入れるように。おやすみ。
あ、これ、忘れてる」

乗り込んでいた私の肩にフワッと掛けられた。

「もう、俺のところに落ち着いたらどうだ…」

え…。

プシュー。

…。

もう。大人は要所、要所、上手いというか狡いというか。

社長…こうして存在を印象付けて行く。

こんな関わり方をしていたら、少しずつ侵食されている事に自分でも気がついている。

負け惜しみとか、強がりとかではなく、今、五十嵐慶而とは楽しくしている。
普通に過ごしている。

だから突発的な事でも起きない限り、まだこの楽しさから何も変わる事は無いと思う。

だけど、思う事は、五十嵐慶而は、私との未来は考えないだろうという事。

真面目につき合っていても、…終わりのあるつき合いなんじゃないかと思う。

結婚したいだろう。
子供だって…沢山と言わなくてもやっぱり欲しいだろう。

私にはまず無理、どちらも。

だったら…早く…解放してあげた方がいいのかも知れない。


…いけない、色々思いを巡らせていられる程、長い時間乗っていられる訳じゃなかった。

降りますボタンを押した。

カードを翳す。



「お帰り」

「あ…、びっくりしたぁ。ただいま…」

驚いた。いつもこうだと不思議な力って働くのかなと思ってしまう。

考えていると、こうして会う。


「こんなの忙しないか?
仕事終わって、社長んちに行ってご飯作って食べて、帰って来て、今度は俺が居たら、気が休まらない?」

「ううん、…バス停に居た事に驚いたけど、嬉しい。
慶而君の事、考えてたし」

あ、…、はぁ。

「灯…あったかい…。
今から俺ん家に行こう?」

「あ、うん。いいの?」

「ん?いいに決まってる」

「大分待ってたの?」

身体が冷えている。

「そうでも無い。灯、渡るぞ」

「えっ?」

抱きしめていた身体を離し、手を握ると横断歩道では無い場所を後をついて走って渡る。

はぁ、こんなの初めてだ。
こんな事でさえドキドキしてしまうのは、今まで色んな経験をしてないからだ。
男の人に手を引かれて走るなんて…漫画みたい。
ドキドキしない訳が無い。

はぁ、…はぁ。

「大丈夫?灯」

「うん、…大丈夫」

整体院に停めてあった車に乗り込む。

「ん、…灯…」

シートベルトをする手を掴まれ動きを止められた。

後頭部を掴まれ唇が触れる。

……ん、ん。

「さあ、行くか」

携帯の吸い殻入れを持って煙草を吸っていたのかも知れない。
熱のある深い口づけはピリピリした。

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