好きになるまで待ってなんていられない
「鍵、掛けたか?…さあ…来い」
部屋から下に下りるところだ。
「あ、社長、重いです。歩けるんだから、ゆっくり下りれば大丈夫です。
腰、痛めてしまいます」
「階段、うっかり転げ落ちたらどうする」
「そうですけど、手を繋げば大丈夫ですから」
「なにか?俺が腰痛めたら、灯が困るから心配してるのか?」
もう…馬鹿ですか。
「…何言ってるんです、…もう」
「それより、もういい加減、家で社長はやめろ。つい出るっていうのも解るけど」
「しゃっちょー」
「ちゃちょー」
…。
「…ほらな。なんでお父さんじゃなくて、第一声も社長だったんだか、全く…はぁぁ」
…ハハハ、…。両脇に子供を抱いている。
「灯がずっと社長って呼ぶからだ…」
「あかり〜」
「ちゅき〜、ちゅー」
…。
「社長…、蒼さんだって、まだ小さいからって…子供の前で気を抜いて色々するから、…こんなの覚えちゃって…」
「これは、いい事だ。家庭円満でいいじゃないか」
…兄妹二人くっついて抱き合ってたりしてますけど?…まあ、今だけだからいいですけどね。
コツン。
「よお、稜、綾」
「ももがけいじ!」
「けいじ、けいじ」
「フ。モ、モ、ン、ガ。今からあっちか?」
「うん」
「たまには子供、預かってやろうか?」
「え?」
「二人になりたい時もあるだろ?」
「おぉ、そうだな。頼めるか?」
「ば、馬鹿ですか。…何、嬉しそうに言ってるんですか…」
「フ。子供の前で馬鹿は無いな。気をつけないと直ぐ覚えるぞ」
「…すみません」
「ま、いつでも遠慮なく。じゃあ、稜、綾、バイバイ」
「ばいばいけいじ」
「けいじ〜」
「ああ、頼む時は遠慮なく言うよ」
…もう。馬鹿ですか…。
大きくなったな…。妊娠したと話しに来た時、俺の子じゃない事は明白だった。
そして、それが社長との子だっていう事も、あの日だったって事も、聞かなくても解った。
社長が謀ったのかと一瞬過ぎったが、そういう事ではないだろうと思った。
きっと奇跡的な偶然だ。それも、まさか双子だったとはな。驚いた。
二卵性の双子。早産だったけれど、灯は食事にも気をつけて高血圧になる事もなく、子供も小さいながらに元気に産まれた。
俺は産科医では無いが、血圧を測ったり、検診とは別に気にかけた。母子共に無事出産出来てホッとした。
灯に何かあったら…そう思うと気が気じゃなかった。出産は病気じゃないから軽く見られがちだが大量出血する事もある。
小さく生まれてきた稜と綾…りょうとあやなんだけど、双子だからってわざと似た漢字にしやがって。…面倒臭い。もう一歳になった。何だか、あいつらにとっては隣のいいおじさんになってしまった。
俺はおまえらのお母さんが好きなんだけどな。灯は結婚はしていない、事実婚だ。
一時的に暮らしていた部屋とは別に、新しい部屋を借り直したようだ。基本は社長の住まいって事だ。灯はこの部屋から引っ越さない。この部屋には灯の思いがあるから。
昔、何もかも捨てて、部屋の中はすっきり片付けたのに、ずっと捨てられなかったモノがあったからだ。
社長への思い。
灯の中には、初めから社長が住み続けている。
それでも俺は好きだけどな。
「なぁ、灯〜」
…。
「灯〜」
…。
「稜も綾も寝た。一度寝たら起きないなんて、なんて親孝行な子供達なんだ」
…。
「灯が妊娠中から穏やかな気持ちで育ててくれたから二人共凄くいい子だ」
…ぁ、や…もう。
「後ろから抱きしめたら駄目って、言ってますよね?」
「ああ、…知ってる。でも灯が返事しないからだろ?」
洗い物の手を止められ、水を止める。エプロンの紐を解いている。…社長。
「灯ー、今日、安全日?」
「それは…言わなくてもいい事ですよね?」
「フ。いいよ?はっきり言わなければ子沢山になるだけだ。いいのか?」
………。
「もう…。安全日です」
「そうか!」
キャ。抱き上げられた。寝室に向かってもう歩いている。
「馬鹿でも何でもいい。何とでも思ってくれ。十何年か振りにシたのに、…灯の妊娠でずっとお預けだった。我慢したんだ。灯を好き放題、稜と綾にばっかり取られてるなんて、もう堪えられない…」
「社…、蒼…何言ってるんです…子供は子供です」
「灯…一杯しよう。子沢山になってもいいから」
「…もう、出産は無理です」
「灯…じゃあ、仕方ないけど、着けてするか…」
「…大丈夫です」
「ん?」
「授乳期もとうに終わってます」
「ん?そうだな」
「お薬貰って飲んでるんです」
「ん…どうした…薬って、血圧でも高くなったのか?調子が悪いなら言わなきゃ駄目だ」