好きになるまで待ってなんていられない


「いいえ、血圧も高くなる事は無いです。少し前から、いつでも大丈夫なように…思いがけず妊娠することが無いように、ピルを飲んでいます。…かなり早い内から、しても大丈夫は大丈夫なのに、蒼、ずっと我慢してるから…」

「灯…」

だって…、社長はコンドームを着けるのは好きじゃない。それに、以前とは違って、沢山したいとなれば、安全日と言えども、また安全とはならなくなる。だけど、ピルを飲んでいると伝えてしまうと、これから拒否が難しくなる…。…言わなきゃ良かったかな。内緒にしておいて、子沢山になってもいいんだからと頷いていれば良かったんだ。それで、その内、落ち着いた頃に打ち明ければ良かった。私とした事が…はぁ。これをどう切り返そうかな。…仕方ない。

「…安全日に限らず、心配無く、蒼が出来るといいかなって」

こうなったら逆に、たまに可愛らしく言ってみるのも、…どう?

「灯…」

「社長?」

…あ、また社長って。

「あの頃からしたら、こんな日が来るとは思わなかった…。ただ一生…、何でもいい、少しでも関わっていたくて、…おちゃらけて終わってしまうんじゃないのかと正直思っていた。歳は食ってしまったけど、俺は純粋な心で、心底嬉しいと思っている。灯と、…こんな風に一緒に居られるなんて」

「社長…」

本当に?社長がウルウルしている。本当?…お芝居?…。本当みたいですね。

「社長…私もです」

「知ってる。灯の事は何でも知ってる。あの頃から好きだって事も知ってる。そうじゃなきゃできない。違わないだろ?俺が好きなのも解っていたはずだ。違わないだろ?」

「んー、社長の気持ちは…思い込みで悲しい気持ちになりたくなかったから…。だから、そうだといいなくらいに思う事にしておきました…。なれなくても、気の無い振りをして、精一杯大人の振りをするしか無かったです。私達の関係は駄目な事…社長は妻帯者でしたから」

身体だけって事も駄目、心があったら尚更駄目。

「そうだよな、すまなかったな…」

「いいえ。…ずっと一緒に居られました。会社に行けば、顔、ずっと、見られる訳ですから。私はご存知の通り、気の強い天の邪鬼ですから」

「灯…ん…」

社長、堪らなくなって唇を奪われた気がした。…ん。優しくて、甘くて…ん。苦い。…切ない。

「本当に…。もっともっと、ってしたくなります…狡いですね、私…」

…食後の珈琲味の口づけ。

「ん、俺は灯にだけキス魔だ。だけど灯は五十嵐にまだドキドキしてるからな」

…それは。まだ完全に気持ちが切れたとは答えられない。会える距離に居る、子供を介してだとしても関わってる…。

「あ、…社長?綾にしちゃ駄目ですよ?大人のチューは虫歯の原因になるから」

「解ってる、俺は父親経験者だ…灯にしかしないから…大丈夫だ…、ん…」


『成美灯です。なんの取り柄もありません。しいていうなら健康な事と真面目なところだけが長所です』

いきなりの挨拶にドキッとした。面接に来た成美はそう言って履歴書置き元気に頭を下げた。
今みたいに髪を後ろで括り、スラッと背が高くて、爽やかで真面目さが顔に出ている、そんな子だった。
この瞬間から、もう俺は始まっていたんだな…。

「…社長?」

「ん?あぁ。灯は可愛いなと思ってな」

…なんか、…危険な気がする。

「よし、するぞ。灯の好意を無下にする訳にはいかないからな」

「あの…程々で結構です」

と言うか…もう無理かな…。

「ああ、解ってる、大丈夫だ。俺にとっての程々だ…灯…」

…ハハハ、…理屈では上手だ、敵わない。…ぁ、…ん、蒼。

トコ、トコ…。トコ。…カ、チャ。

ん……ん?…ん?

「しゃっちょー!あかり〜」

「ちゅき〜、ちゅー」

…。

「あ、はぁ…。稜、綾。…起きたのかぁ〜?よ〜し、来い。お父さんが直ぐ寝かせてやるからな」

はぁ…五十嵐に預けたら良かったかな。
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