好きになるまで待ってなんていられない
コツン、コツン…。
コンコンコン。
「慶而君?居る?」
カチャ。
「ん、ごめん、今、しまってるとこだから、直ぐだ。入って待ってて。なんだ?珍しいな…会いたくなったのか?」
「うん…」
長椅子に座った。
「よ〜し…と。家に行くか?それとも、灯んち?」
パチ、パチっと明かりのスイッチを切る。
「あ、待って。ここで、あのね…このまま…聞いて欲しい事があるの」
「ん、ここでって。何。いいのか?じゃあと、あ、珈琲飲む?」
また明かりを点ける。
「ううん、いい」
…初期と言えども、缶珈琲は飲まない方がいいはず。
「そうか、じゃあ俺もいいや。で?話って?」
隣に腰を下ろした。
「うん…、あのね…、病院に行って…ちゃんと解ったんだけど」
「うん」
あ、うん、て。
「…私、妊娠した」
「うん」
「…えっ?驚かないの?こんな事…、慶而君に言ってるのよ?…平気なの?」
「驚いてるよ?これでも」
……驚いてない。
「社長さんの子だろ?…相手が社長さんじゃなくて他に居る…また違う人だって言われたら、そりゃあ目茶苦茶驚くけど。コンドームが不良品でない限り、まず俺の子じゃないからな。そこは可能性はほぼゼロに近い。だろ?子供、生みたいんだろ?」
…。
「…うん」
「生めばいい、灯の子だ」
…。
「…怒らないの?」
「俺が?何を?社長とした事をか?妊娠した事?それで俺が灯を叱るのか?……怒るっていうか」
慶而君…怒らない…。
「淡々としてると思ってるだろ?俺の事。俺は俺の気持ちで灯の事が好きだと思ってる。
灯と社長さんには俺の知らない昔がある。大人の、やるせない気持ちでした事までは、介入出来ないと思ってる。これは一応やきもちとは別だぞ?
別に、後悔のある妊娠って訳じゃないんだろ?」
「うん…。後悔はないけど…まさか妊娠するとは思わなかった」
「甘いな」
「うん…。安全日でも、どこかで妊娠はない事じゃないって、それは昔から解ってはいたけど…」
「求めたいだけ求め合ったら出来る事もあるさ。着けてないんだからある事だ…相性がいいんだろ。はぁ…知ってる?長ければ最長5日くらい元気らしいからな?おたまじゃくし。
…元気だったんじゃないのか?社長さんの分身。だから、した日は大丈夫だった日でも、安全な日…、越えてしまったのかも知れないな。フ…。なんかさぁ、念でもこもってたんじゃないのか?……知らないけど。
俺と灯はよく似てる…。俺らはどこか冷めてるとこあるよな…」
そうじゃなきゃ、俺じゃない男との子を妊娠したと聞かされて、こんなに冷静に話してなんていられ無いだろう。嫉妬の塊になって罵り合うなんて事になってない。
冷めてる…か。うん、多分家庭環境のせいじゃないかなと思う。慶而君も複雑。うちも、ちょっと寂しい環境だったから。
「俺も灯も、大人で居なくちゃとか、多分小さい時から周りに気を遣って生きて来たようなとこ、あるよな」
「…そうなのかな」
「無意識に空気を読んでたと思う、多分な」