好きになるまで待ってなんていられない
「もう!早く!」
「…なんだよ、まだ間に合うだろうが」
「間に合うけど、このままじゃ、いつもより時間が足りないの。だいたい…」
「あー、俺が悪いんだ、俺がな」
「何よ…」
「顔色、いいな」
…。何よ。
バタバタと乗り込んだ車の中。
運転する男が手を伸ばして頬に触れた。
…何よ、もう。
貴方がした結果でしょ?
「あ、もうここでいい。降りる。後は走った方が早い」
「あ、おい。これ、鍵、鍵。忘れたら降りる意味が無い」
「…有難う」
「はぁ。そこの交差点、過ぎたところで停めるから、まだちょっと待て」
「…はい」
取り敢えず、おとなしく従う事にした。
「じゃあな」
「はい」
車を降りて走った。
…もう。なんでこんな事に。持って来ていた靴がスニーカーで良かった。
走るのは昔程そう大して速い訳では無いけど、少しずつしか進まない車に乗っているよりはマシ。
…はぁ。こういうの、朝帰りって言うのかな、やっぱり。朝帰りよね。
…はぁ。
顔色がいいなんて…。はぁ。
あ、…今更だけど、がっつりすっぴんだと言う事に気が付いた。
…なんて事。…恐ろしい。
ジョギングの人なら、タオルとか帽子とか、少しは隠せそうなアイテムがありそうだけど。
私はそうはいかない。
とにかく少しでも早く、部屋に帰るしかない。
…大昔とった杵柄よ。
お、あいつ、走るの結構速いな。フォームも綺麗だ。
陸上でもしてたんだろうか。
フ。俺からいつも逃げるように走ってるな。