好きになるまで待ってなんていられない


この部屋と、社長のベッドルームは多分一番距離があると思う。

うっかり見た社長は、ボサボサの濡れ髪に肩にタオルを掛けていた。
スウェットを着ていた。

意識しないつもりでも意識はしてしまう。
何より、声を聞くのが辛い。
薄暗いところで、あの声は聞きたくないかも。

鍵は掛けられるって言ったけど、ここって和室で引き戸だから鍵は掛けられないんですけど…。
うっかりなのか、…わざとなのか、解らない。
わざとでは無いと思った。他の部屋は鍵があるはずだ。

丁寧に敷いてくれている布団に入った。

体が芯から温まっていてよく眠れそうな気がした半面、社長の部屋に居る事、…何より、社長と昔した事が頭を過ぎって仕方なかった。当の本人も居る。



夢を見た。
言わずもがな…社長の夢だ。初めて関係を持った時の夢。
25歳最後の日…そして26になる日だった。
偶然か、そうでないかは知らない。聞かなかったから。

「成美の安全日はいつだ?」

安全日?そんな話から…でも仕方ないのか。

「俺は、診断書がある訳じゃないから信用して貰うだけだが、病気はない。成美とする時は着けないから」

っ!?いきなり安全日とか…着けないとか、…言ってる事は解ったけど。
はぁ、だけど、そんな…少しでもリスクのある事…何故…。危ないでしょ。

「悪いな、いきなりこんな、ムードもへったくれも無い話をして。俺達にムードは関係無いか…」

私…。

「私は病院で診て貰った事はないです。だから解りません。でも…、男の人とそういうのは…ないから…」

妊娠しないかどうか、安全日でも、不安が無い訳じゃない…。だけど。

「今日は安全日です」

「そうか。じゃあ、これは要らないな」

コンドームはベッドの下に落とされた。あ。本当につけないの?


「成美…」

唇を這わせながら脱がされていく。社長は腰のバスタオルを取り去ればもう裸だ。
…こんな事、…ん、…ぁ。良くないに決まってる。でも…。

「ん、…成美…しがみつけ」

ずり上がって逃げる身体を引き戻され、抱きしめられた。

私…気持ちがばれなければいいけど…。そう思いながら腕を回してしがみついた。

…。


「灯…」

唇に優しく触れる何となくの感触…。意識の向こうで、おやすみと言う声が聞こえた。
……珈琲の香りがした。


あ、…はぁ。

…。

社長…。
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