好きになるまで待ってなんていられない
成美…。
はぁ…あの日、…無理をさせた。時間の限り抱き続けた。
そのまましたいという俺を成美は受け入れた。
俺と初めての日。12時を回れば成美の誕生日だった。
いつまでも帰りたくないと思ってしまった。
忘れられない日になってくれたらいいのにと思った。
…勝手な思いだ。
今から思えば、若かった。
成美を空しくさせるだけなのに。
とうに形ばかりの夫婦だとしても、俺は現実妻帯者だ。歴とした婚姻関係にある妻帯者だ。
これは浮気とでも言うのか。不倫か。
そうであって、そうでは無い。
俺の気持ちがそうでは無いんだ。本気に見せない本気だ。
灯との事、身体に余韻を残しながら何食わぬ顔で家に帰った。
顔を見られる事も無かった。
用意されたご飯を済ませ、風呂に入って寝るだけだ。
子供と寝ているあいつとは寝室はずっと別だ。
俺の睡眠を妨げないように別に寝るからと言って。
俺は眠れない。
灯の事を思って眠れない。
灯として来た事が俺を支配する。
灯の…苦しそうで切ない顔が頭を離れない。俺にしがみつく腕、身体の感触が忘れられない。
馬鹿だな…、馬鹿だ。思えば高ぶるばかりだ。
はぁ、灯…。
あれからもう、13年も経ったんだな。
数字にして見ると確かに長い。昔の事になった。
会社で灯の顔を見ていられたから、俺は婚姻生活を続けられたのかも知れない。
一年一年、子供の成長を見ながら、やっと区切りをつけられた。子育ては…過ぎてしまえばあっという間だというけれど、長かった。
ん゙ん。眠れない。
朝、目が覚めてリビングに行った。
成美は居なかった。
…こっちか。
和室の引き戸は開いていて、綺麗に畳まれた布団が見えていた。
シーツやカバーは洗濯され干されていた。溜まっていた洗濯もしてくれていた。
朝ご飯の支度も済んでいた。
「成美?…成美?」
返事が聞こえて来ない。成美はどこにも居なかった。
ご飯茶碗の下にメモが見えた。
『おはようございます。勝手に洗濯をしてごめんなさい。ご飯も勝手に作りました。
一人で温めて、ラップを取るなんて事をさせてごめんなさい。
帰る手段はいくらでもあります。一人で帰れます。送って貰わない方がきっと私達にはいいと思います。
無事着いたらメールしますから。ピースマーク 成美』
はぁ、一体何時に起きたんだ。全然気がつかなかった。
…携帯。
【着きました!成美】
…早い。早過ぎやしないか?
成美…。
車のキーを握り飛び出した。