好きになるまで待ってなんていられない


車に乗りエンジンをかけた。
アクセルを踏み込もうとして、止めた。車を降りた。

成美はきっと歩いている。

こんな時、成美は表通りは歩かない。
車では見つけられない道…。
俺の近所で目立つところは避けて歩くだろう。きっと裏道を選んで歩いているに違いない。携帯を見ながら。

きっとそうだ。
どこに入り込む…。
向かう方向はあっちなんだから、あまり大通りから外れない道か…。


この道から入るはずだ。
ここら辺なら、成美より俺が熟知している。
ずっとは走れないはず。走る必要は無い。
歩いて休み休みのんびり帰っているはずだ。
俺が走って探せば見つけられる。
歩いて帰っていると疑わなかった。
どこだ成美。

一人でなんて帰るな。

成美。



もう、…解んない。
こんなに地図が読めない人間だっけ?

道路に合わせて携帯をクルクル回して見る。あれ?
これは本当に…読めない人がする事じゃない?
一度冷静に見て間違いないようにしないと、このままではとんでもないところへ行ってしまうかも。
立ち止まった。

んー、このメイン通りはこれ。行きたい方向はこっち。
…危ない。
危うく戻るところだった。

あれ、どこで曲がり間違えたんだろう。
お腹空いて血糖値も下がってるかな。脳が働けませんて、訴えてるんだ。

よし。
この道をまず行けばいい。

出たら、左に、…出たら左に、だ。

ドン。

「あ、すみません。ごめんなさい」

「鬼ごっこか?かくれんぼか?」

…え?
携帯から顔を上げたく無い。解ってる、この声はよく知ってる……社長。


「着いたなんて嘘をつくんじゃない」

…。

「着いてました。これは、改めて散歩に出たんです」

「また随分遠くまで散歩に来たもんだな」

…。

「迷ったか」

「散歩です」

…。

「解った、じゃあ、散歩だ」

「あ、ちょっと、そっちは」

手を引かれた。

「帰るんだ。俺の朝飯、成美が温めてくれ。…可哀相だろ?朝から、一人で、チンって」

…。

「な、想像したら可哀相だろ?」

もう、なんで迷ったんだろう。これじゃあ黙って帰った意味が無い。


「なあ成美…休みなんだ。温かい物をゆっくり食わせてくれ」

もう…。そんな言い方…。



あ、社長のマンションが見えて来た。

「ほら、もう着いたぞ。大分グルグルしてただろ。見慣れない景色は一旦入り込むと、一度通っても、見覚えがあるようで無いようで、解らなくなるからな」

おっしゃる通りです。

「…はい」

「…俺、こんな寝癖で歩いてるんだ。急いで帰るぞ。これでも近所ではダンディーで通ってるんだ」

「はい…解りました」

捕まってしまったから…仕方ない。

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