お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
待ちに待った約束の金曜日の夜。散々迷った挙げ句、マスカット色の半袖のシンプルなワンピースにアイボリーの薄手のカーディガンをはおった。スカーフをし、お気にいりのサマンサタバサのかごバックというコンサバな出で立ちだった。

私鉄と地下鉄を乗り継いで、神戸は三宮駅のロータリーで待っていた。金曜日の夜ということもあり、アフター5をこれから楽しもうとするような人達が、街に溢れていた。

雨上がりのアスファルトの独特な臭いがし、湿気を含んだ風で、髪が頬にはりつく。梅雨明けが待ち遠しい。そうなると、本格的な暑さがやっては来るのだけれど。

一台の車がロータリーに入ってきた。先生の車だとすぐにわかった。ベージュ色の珍しいタイプのメルセデスベンツだったからだ。

私の姿を確認したのか、車はそのまま私の前に来て止まった。助手席の窓が開き、だて眼鏡をしている先生が「待たせた?ごめんね、乗って」

週末は車がロータリーに溢れる。急いで乗り込んだ。車の内装もカスタマイズされていた。気後れしていた私を見て、

「やっぱり詠美ちゃんはそう言うコンサバな感じが似合うね」褒められた事より以前に、詠美ちゃんと呼ばれた事に、これはやっぱりデートなんだと改めて嬉しかった。




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