~団塊世代が育った里山から~
細長い石を並べて造ってある野天のヤキバ「火葬場」に行って、近くに立っているお地蔵様の前に証拠となる品物を置いて次の組が持ち帰ってくる、キモ試しを蒸し暑い夏の夜に悪ガキたちが集まってするのです。
あかりを持たないでヤキバまで行く闇の道には、なま温かい風が穂の出始めたススキを揺らして亡霊がユラユラと揺らいでいるように見えて、墓場には何基もの墓石がにらみつけるお化けのようで怖いのです。
キモ試しにいくグループを組んだらクジを引いて順番を決めるのですが、運悪く一番先に行くことになった三人組が、「オマンタ ショ エカ ヨグ キケヤ ユウマンマ エッペエゴト 食って キタサゲ オッカネグ ネエシ お化けが出てきたら俺が先に行って ワイラ エグトキニ エネヨウニ オッパラッテ ヤルスケナ」と、みんなの前で去勢をはるのです。
ヤキバに向かって出発をした三人組は狭い道が続く闇のなかで離れないように、お互いの腰にぶら下がるようにつかまって、三人が一塊となって喋ることもなく一歩ずつユックリと向かうのです。
途中で暗闇にユラユラと飛ぶ蛍が人魂のように想像してしまい、もはや膝はガクガクで腰が引けて恐ろしさをこらえてお地蔵様の前までたどり着こうとするのです。
墓場を抜けたころに怖さが絶頂になったヤキバの近くになると、両手で前の子供の腰をつかんで最後にくっついていた子供がガマンのできない強い恐怖がおそうと、首の後ろから背筋にかけてスゥーツと冷たくなった気がして、手足から腰の関節の震えが止まらず歯の根がカクカクと無意識に動くのです。
真っ暗な闇のなかにボーと白い何かが見えた気がしたとたん、怖さイッパイで恐ろしさに耐える限界をこえて変な汗が額に流れ出たとたんに叫び、「ギャァ~ デタワヤァ~ エタエタ ユウレイ が タッテエンノガ メェタァ~ うらめしや セッタドォ~ オラ オッカネエスケ モォヤダサゲ オレ カエンドォ~」と大声を上げるのです。
前の子供につかまった腰から手を放して、後発をする子供たちが待つ明かりのついた集会所に慌てて戻ろうとして、石につまずいて転んだ勢いでゲタが脱げてしまいハダシのガクガクとした体でおかしな走り方で一目散に逃げ帰るのです。
強気を装っていた二人も内心は怖さを隠していたのですが、「オラモ エッセニ オッカネェグ なってきた○○チャンが幽霊を メェタ セッテルスケ ホントニ エタラ ドォシル」と二人は弱音を言い出し始めるのです。
逃げ帰った子供に誘発してますます恐怖を増したのか、二人とも同時に「ギャァ~ ヘンナモンガ が エルドォ 人魂と幽霊が ハカショ の メエニ エンドォ~」と、叫んで逃げてゆくのです。
子供たちが待っている明るい場所に帰った負けず嫌いの三人組は、自分たちの弱さを隠すためのつくり話をするのです。
血だらけの生首がヤキバの上にいくつも並んであったとか、人魂が青白くポカ~ンポカ~ンと揺れ動いて白い着物の長い髪のバチャ「おバアさん」がお地蔵様の前に立っていたとか、自分たちが見てもいないウソの話を、二番目に行く子供たちに聞かせて大きく恐怖心をあおるのです。
話を聞いた後発の子供たちは、最初に行った三人組よりも何倍ものの恐怖心を持ってしまい、次の後発組も挑戦するのですが、結局は恐怖のお地蔵様の前まではだれも行けないのです。
恐怖感が残ったまま家に帰ってから寝床に入って、普段は気にしたことのないガタンゴトンと帯戸が揺れる音がしただけで、幽霊が自分にくっついてきたような気がして眠れないのです。
険しい山へとつながる野山には初夏から秋にかけて実のなる木が茂っていて、絶えず空腹の子供たちは稔の時期を良く知っていて熟すころに山へ行くのです。
よく食べる代表的なのが、山サクランボ、桑の実、木イチゴ、山柿 クリ クルミ アケビ サルナシ 山ブドウ の季節ごとに熟した実を自然からの贈り物としておやつに食べるのです。
どこの家庭でもおやつはもらえないので、山で食べる実を見つけると熟していない青い実でも手あたり次第食べるのですが、固くて渋くて酸っぱいのをガマンしてガリガリと食べると翌朝は便秘になって大変なのです。
山桜の花が散ると葉の裏に小さな粒が山サクランボの実なのですが、熟すのを待っていた子供たちは猿のように木に登って、夢中で食べると唇や舌が真っ黒になって指まで黒く染まるのです。
枝にぶら下がる大きな房の熟した山ブドウは、甘くておいしいしいのでつい食べ過ぎると後になって舌がブドウ色に染まりヒリヒリと痛くなってしまうのです。
種の多いアケビや山柿などは完全に熱すと、独特の甘さがあってやわらかくポタポタとしてとてもうまいのです。
夜の静寂にコロ コロとコオロギが鳴く季節になって、稲が黄色く輝くジュウタンを敷き詰めたような稔の秋は、子供たちは田んぼのアゼを回って稲の葉を食べるイナゴ捕りをするのです。
古くなった手ぬぐいを口の部分に十cm位の細竹をくくり付けた袋を母親に縫ってもらい、腰にぶら下げて早朝の田んぼに行くのです。
途中の道では大人たちが牛馬の餌になる草を刈る姿が見えて、刈り取っていない草むらは朝露が降りていてズボンの裾がビショビショにぬれて冷たくなるのです。
稲の葉の先端にいるイナゴは、夜の冷え込みで動きが鈍いと思って後ろから捕まえようとするのですが、ピョンピョンと逃げるので頭からサッと素早く捕まえるのがコツなのです。
捕ったイナゴを細竹の入り口から次から次と袋に落とし込むと、逃げようとバタバタと暴れ回るのですが細竹の入り口まで上がってこない袋の仕組みになっているのです。
里山のどこの家でも、無農薬で安全なイナゴを一度蒸してから甘辛く煮るツクダ煮にして、カルシュウムがたっぷりで香ばしくておいしいイナゴのツクダ煮は、厳しい冬を迎える保存食になるのです。
稲を刈り取ったあとの田んぼはぬかるみがあって、走りにくいのですが転んでも痛くないので泥だらけになって遊べる場所なのです。
そんなベト「土」の乾いた大きな田んぼでアゼの四隅をそれぞれのベースにして、隣接する田んぼは外野になる野球をするのですが、完全に整備した野球場と違って打ったボールが稲のカブツ「株」に当たって、とんでもない方向に跳ね思いがけないホームランになったりもするのです。
南北にわたって通る街道に、物や店の宣伝を目的とする宣伝カーがにぎやかにガタゴトとやってきて、車体には宣伝をする商品の名前や絵が塗装してあって周りにタヌキ「ゴム風船」やのぼり旗がいっぱい付けた派手な車なのです。
前後に取り付けたスピーカーから大音量でヒットソングやコマーシャルソングを鳴らして、若くてきれいなお姉さんが車の外にせり出たステージの上から、効果が抜群の宣伝ビラを集まっている人たちにまいて行くのです。
子供たちは宣伝ビラなどどうでもよくて、お姉さんが合間にタヌキをまく瞬間を伺いながら、ユックリと走る宣伝カーの後を追いかけて行くのです。
実が赤く染まった柿の木によじ登って街道の遠くを眺めると、枝の先に見えたのが太鼓や楽器で軽快な音楽を演奏しながらにぎやかな行列が近づいてくるのです。
男の人も女の人もかおを真っ白に塗りたくって、チョンマゲや日本髪を結って目立つ派手な衣装を着て、真っすぐ歩かず街道を右に左にヨロヨロと蛇行しながら一列につながって来るのです。
コメの収穫が終わって農家に現金が入っているのがわかって、停車場前の商店や町のパチンコ屋が宣伝の口上やビラまきなどで、商品の購入や来店を促すためのチンドン屋なのです。