~団塊世代が育った里山から~

貴重な古新聞紙

 インクの匂いが秋のけはいを運ぶ冷たい風にのってくる古新聞紙は、里山の家で貴重なものなのでデンジモト「縁側」の隅に積み置きしておいて、生活のなかでいろいろなものに利用する価値があるのです。
マキに直接マッチで火をつけようとしても燃え着かないので、古新聞紙を丸めて油分の多い乾いた杉の葉をかぶせて、その上にたき付け用の細いボヨ「柴木」を重ね上げるのです。
着火しやすい古新聞紙に火をつけて、杉の葉にパチパチと燃え移り細い柴木が燃え上がったら細いマキに炎が移るようにボヨの上にのせて、徐々に太いマキをサックベテ「投入する」炎を大きくするのです。

なんでも物のない里山には、真っ白なチリ紙がなくて古新聞紙や古雑誌をすき返して再生した、ネズミ色でシワシワの四角く束になった鼻紙でさえ貴重なのです。
鼻紙でも家庭では使いきれずに古新聞紙を四角く一定の大きさに切って、用を足すアッパンジャ「ポットン便所」の落とし紙として使うのです。
アッパンジャの床が長方形に切り開けた穴をまたいで、腰を落として肥だめをのぞくとアッパ「人プン」と切った古新聞紙が、積み重なってピラミッド状態にそびえているのです。
用をたしてから古新聞紙をそのまま使おうとすると、尻に残ったアッパが滑ってうまく拭き取れないので、古新聞紙を手でクシャクシャにもんでやわらかくしてから拭くと、シワになった隙間に拭き取れ尻もそんなに痛くないのです。
子供はアッパンジャの古新聞紙を手にして、まだ読めない活字を眺めて難しい漢字の意味を想像するのです。

用足しに使った古新聞紙は、かなりの割合でアッパンジャのなかでフン尿にまみれて、やがては肥だめがいっぱいになるのです。
外にある取り出し口から古新聞紙と混ざり合ったダラ「フン尿」を、長い柄のヒシャクでダラオケ「肥オケ」にくみ取って、テンビン棒で担いでバランスを取りながら畑に運んで肥料にするのです。
畑一帯が異臭のする野道でダラオケを担いで歩く二人の調子が合わないと、チャップンチャップンと暴れたダラのしぶきが野良着に飛び着くのです。

里山のカヤブキ屋根の家は、豪雪地帯の建物にしては床や壁の造りは驚くほど粗末なものですが、芯となる柱や根曲がりを使ったハリや棟木は大雪に耐えるように、太い木材で構築しているのです。
座敷や茶の間の床はクギ留めのしていない厚い床板が隙間だらけに貼った上の、湿気を含んだ重い畳を外して秋の陽が当たる庭で乾燥させるのです。
殺風景でむき出しの床板にビッシリと古新聞紙を敷き詰めて、冷たい湿気を防いでノミやシラミが発生しないように防虫剤のDDTを散布してから畳を敷き詰めるのです。

春の暖かい風が吹き出すと、秋の作業と同じように畳を風に当てて乾燥させてから、床板に敷き詰めたDDTの匂いの残る新聞紙を取り除いて、床板の隙間で空気の対流を良くして畳を敷き詰めるのです。
畳の下から取り除いた古新聞紙はDDTの匂いとカビ臭いのですが、捨てることはしないで焚き付けに使って役目が終わるのです。

買い物に行ってきれいな包装紙をもらうと、お宝のようにため込んで着せかえ人形の着物を作ったり折り紙を折ったりして女の子が楽しんで、男の子はもっぱら紙鉄砲や紙飛行機に折って遊ぶのです。
ピカピカに輝く金色の包装紙で折った紙飛行機は、勢いをつけて投げ飛ばすと翼がお日様の光に輝きながら風に乗って青空を滑空して、漫画で見た飛行機しか知らない子供たちは本物と錯覚して、大空に飛ぶあこがれを抱きながら小さな胸をかき立てるのです。

高いので買ってもらえずだれもかぶっていない学生帽が、学校の雨具かけに掛けてある裕福な子供の学生帽を見つけたヤンチャな子供たちは、ねたみ半分から投げて遊んでいじくり回しているうちに、古新聞紙が汗取りのフチを裏返すと巻いてあるのを見つけるのです。
古新聞紙が意外なところに使っているのを発見した子供たちは、普段からの負い目から「ヤーイ シンブン ボウシ コゾォ~ オマン が エツモ エッセコク 学生帽は シンブンガミ でできて エンノカヤ」と、裕福な子供を冷やかして大げんかになって先生が怒るのです。

数少ない商店では包装紙を使っていなくて、肉屋では経木「板の紙」に肉を包んで縛ってその上から古新聞紙に包んでくれるのですが、魚はそのまま古新聞紙にノリを付けて作った袋に入れてくれるのです。
学校の習字で使う白い紙はすごく貴重で輝くような存在なので、習字用紙と同じ幅に切った古新聞紙に何度も練習をしてから白い習字用紙に清書するのです。
子供たちが楽しみにしている行事のある前日は、雨が降らないように願いを込めて古新聞紙を丸めてテルテルボウズを作って目鼻口を書いて、怪しげな雲行きの夕焼け空を見上げながら軒先につるすのです。
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