~団塊世代が育った里山から~

食と衛生に健康

祭りの日か家庭に祝いごとがない限りにいけない食堂は、スイッチバック方式で本線から引き込んで駅舎のある停車場に何軒かあるのです。
石炭の燃える匂いのする停車場は、洋服店、ゲタ屋、パーマ屋、金物店、魚屋、肉屋、新聞店、 飲食店、が建ち並ぶ通りは、いろいろな人が忙しそうに行ったり来たりをしているのです。
電信柱に丸く白いカサの付いた裸電球が暗闇にポツンポツンとともる、カヤブキ屋根の並ぶ集落と違って停車場は明るくてにぎやかなのです。

ユラユラと揺れ動く玉ノレンをくぐってスリガラスの戸をガラガラと音をさせて食堂に入ると、農家の土間を広くしたような店内に粗末なテーブルと丸椅子を置いた小さな食堂なのです。
壁に張った赤い唐草模様で縁取ったお品書きの、シナそば「ラーメン」の文字を見つけただけでおなかがなるのに、さらに店内にこもるシナ竹の煮える匂いとチャーシューの焼ける匂いでツバが湧き出るのです。
家庭で絶対に食べるのができない刺激的な味は、豚ガラや鳥ガラと煮干しでダシを取ったショウユの味が濃いスープで、縁、青、赤、黄、の四角い渦巻き模様が入った中華ドンブリのシナそばが出てくるのです。
中華麺は卵が多く入った黄色の細麺がチリチリと縮れていて、適度にスープが麺にまとわりついてスープと相まってうまく、自慢のチャーシューはやわらかく焼きあげたものを薄く切って、スープに一~二枚浮いているのです。
小口に切った長ネギと鳴門巻に、甘辛く煮込んだシナチク「メンマ」の何とも言えない風味に、普段の粗末な食事に耐え抜いている子供には異次元な食べ物なのです。

家庭で良く食べるのが山菜や自家製野菜を漬けたものや豆類が多くて、牛や豚の肉は高価で食べないのです。
たまにやって来る行商人から干物や塩辛い魚を買うのですが、歴然と腐っていない限りは賞味期限や添加物など全く気にすることがなく、乾燥と塩分を信用して安全だと思って食べるのです。
自家製ミソのミソ汁の具に季節の野菜を多く入れるのですが、時たま豆腐やクジラの脂身が入ったのはゼイ沢に思うほど、普段は野菜を多く食べる自給自足の生活に近いのです。

熱が出て食欲のない時はヤギを飼っている家に行って、一升瓶に入った乳を体に良いからと母親が買ってくれて、具合の悪い時だけ飲む滋養のある乳なのですが、温めるとヤギの青臭い匂いが鼻に抜けるのです。
匂いのする乳が飲めない子供の家では、クズ湯とは称しているのですが本物のクズ粉は買えないので、カタクリ粉とサッカリン「砂糖代用品」を煮溶かしたトロミのある少し苦くて甘い汁をススルのです。
よほど具合が悪くなって何も喉が通らなくなってから食べるのが、ミカンや白桃の缶詰でめったに口にすることのできない甘酸っぱさは忘れないのです。

扁桃腺が腫れて喉が痛いと、畑から太いネギを抜いて来てヨロリのオキ「おき火」で焼いて手拭いに包み喉に巻くのですが、ネギのない季節は粗塩をオキで炒って首に巻いて喉を温めるのです。
セキが何日も止まらないと乾燥したオオバコを煎じて何日間飲み続けると、不思議にセキが止まってタンがきれるのですが、腹痛や下痢の時はゲンノショウコやドクダミを真夏に採って干したものを、土瓶でグツグツと煎じて赤黒い液体の苦くて青臭いので鼻をつまんで一気に飲むのです。
イタズラの過ぎた結果でケガをした傷口が化ノウしたときに、裏の草ヤブからユキノシタを採って来て、葉っぱの表面を焼いて薄皮をむき傷口に貼って一晩たつとウミが出て楽になるのです。
子供たちが良く使う薬草に毒虫や蚊に刺されてかゆくて痛いときは、ヨモギを石でたたいて汁が出てきたら押し当てると楽になる自然療法なのです。

里山の大人たちは五十歳前後の年齢で子供たちの目から見ると、実際の年齢よりも老けていて立派なジサ「おジイさん」に見えて、先進国では平均寿命が五十歳をこえているのに里山に住む人たちは、五十歳前後で亡くなる人が多く短命なのです。
大きな要因として、厳しい自然のなかの暮らしであさから夕方の遅くまで山仕事や農作業を繰り返す、過酷な重労働と不衛生な生活環境にあるのです。
休みなく毎日のキツイ仕事をする割には食生活が質素で、塩分の多いツケ物や塩蔵魚をオカズにして大量のご飯と味の濃いミソ汁で空腹を満たすからなのです。

塩味の勢いで大量に白いご飯を食べて大量に排せつする、原始的なアッパンジャ「ポットン便所」には、アッパ「大便」やションベン「小便」をためて置くコエダメがあるのです。
長雨が続くと自分が落として丸見えのコエダメに雨水がしみ込んで、ダラ「フン尿」が液状化してドロドロ状態になっていて用をたすテクニックが必要になってくるのです。
塊の大きなアッパを捻り出して勢いを良く落とすとオツリ「跳ねっかえり」と称して、液状化したダラが跳ね上がってお尻を汚すのです。
小さく捻り出して何度かに分けて用をたすか、我慢できないで一気に大きな塊を落とす時はオツリが来るのを想定して、落としたすぐに腰を捻って立ち上がって避けるのです。
雨音がなく夏は涼しく冬に寒いカヤブキ屋根の家は、玄関と隣り合わせに必ずアッパンジャがあって、戸を開けるとコエツボにたまったアッパの発酵する異様な匂いが家中にこもっているのです。

農耕に大活躍するパートーナーの牛馬と生活する家のなかは想像以上に不衛生で、マヤの敷きワラが牛馬のフン尿と混ざってグショグショになって悪臭がしているのです。
そんな場所にハエや蚊が卵を産み付けて大量に発生する温床で、コエツボにもハエの幼虫のウジ虫がアッパの上で大量にうごめいていて、その成長するスピードは驚くほど早く数日でハエになるのです。
成虫になったハエはコエツボやマヤを飛びだして家中の空間ところ構わず無数に飛び回り、食物や小動物のフンに卵を産み付けるので、手押し噴霧器でフマキラーの殺虫剤を散布するのですが圧倒的にハエの数が多く全滅しないのです。

家のなかで昼間は無数にハエが自由で活発に飛び交って、寝静まる夜は蚊が耳障りで不快な音をさせて飛んで人や動物の血を吸って、小さなシラミやノミは畳やムシロの下に衣類の繊維のすき間を住みかとしていて、畳に座って衣服を着る人や動物に寄生して吸血をするのです。
化学肥料が高価で買えない農家の人たちは、寄生虫の卵が混ざりあったマヤの敷きワラが熟成した堆肥と、人の体からでた寄生虫の卵が入り混じったアッパを有機肥料として、田畑にまいてベト「土」に混ぜ込むのです。
人々は衛生についての知識は乏しくて、畑のベト「土」がついたまま収穫した野菜を水路で洗うだけの不衛生な野菜を食べることで、寄生虫の卵は体内に入り込んで腸内で成虫となってさらに卵を産み続けてアッパと一緒にコエダメに落ちるのです。
ただでも栄養状態の良くない人たちは、体内で成長を続ける寄生虫が栄養分を吸収してしまい、ガリガリにやせ細った人たちが多くて太った人はめったにいないのです。

そんな里山の生活環境で暮らす子供たちですから、学校では定期的に寄生虫検査の検便が行われるのであさの便を小指大くらいとってマッチ箱に入れて、紙袋や新聞紙に包んで組と名前を書いて学校に持っていくのです。
ダンボール箱に集めたマッチ箱はクラスごとに廊下においておくのですが、さまざまな匂いが混ざりあって学校中にかぐわしさが漂うのです。
寄生虫検査は定期的に行われるのですが、ほとんどの子供たちは陽性反応になって苦い薬を飲むのを嫌がる口を開けて飲むと、強い薬で目の前が黄色く見えて頭がクラクラするのです。
薬を飲んだ翌朝は白いミミズのような寄生虫がコオ門に少し出ていて、むずかゆく気持ちが悪いので慌てて用を足してコエツボに落とすのです。
寄生虫のなかでも始末に悪いのがサナダ虫で、頭に鍵状なものが付いていて腸壁のヒダに引っかけて生き残り、薬では駆虫するのが難しいので親に病院へつれて行ってもらうのです。

見た目の子供たちは元気に飛びまわって遊んでいるようでも、栄養状態が極度に悪いので粘度の濃い青いハナが、季節を問わず絶えず両方の鼻の穴からズルズルと垂れているのです。
鼻紙がなくズズッ~ズズッ~と鼻の奥にすするのですが、しばらくするとまた出てくる繰り返しなので面倒になってソデに擦りつけて拭うのです。
栄養失調で体力の低下がまねく感染症の発症が多く、野山を駆けめぐって遊ぶ子供はスリ傷や切り傷を負うのが日常で、赤チンやヨーチンを塗っても必ず化ノウをして炎症を起こすのです。

人々は多くても月に一~二回の頻度でセイフロ「風呂」に四~五日間連続して入って、汚れたら流してしばらくはセイロケに水を満たすことがないのです。
大量の井戸水を必要とするセイロオケに、深い井戸からツルベで何回も水をくみ入れて満杯にする苦労は大変であることに、井戸の水は厳冬期や盛夏の渇水期にたまる量が少ないので、優先的に生活で絶対に必要とする水をだいじにするのです。

雪解けの始まった春や梅雨の時期で、井戸に水が多くたまってヨォ~「湯」をタッタ「沸かした」家では近所に知らせて、もらいに行ったり来たりのモライ湯をする風習があるのです。
「オマンタ ショ 今晩 ヨォ~ タテル カネェ~」「ハァ~ タテルスケ ユウマンマ クッタラ ヨテ 持って ハェリ に キテクンネ」「ソンジャ モレェ に エグスケ 頼むね」「ヨォ~ の ヨカゲン どんな アンベェダネ ノーリク ネエカネ」「ソダネ エッセニ ノーリ ワネヤ」「ちょっと マッテネヤ エマ セイロオケガマ に ボヨ サックベテ 燃やして ワガスケ ノォ」

毎日お風呂に入れない不衛生の上に、子供たちは着替える下着や衣服が少なくてお下がりでもらうアカのしみ込んだ衣服は、肘や膝にツギハギだらけでソデに擦りつける青いハナでテカテカと光らせて何日も着ているのです。
当然のように衣服や頭髪にシラミやノミが寄生して、特に女の子のオカッパ髪の毛根にはシラミが多量に寄生して頭皮全体が白く見えるのです。
シラミの吸血で皮膚にカユミがおそって子供たちや人々を悩ますのですが、恐ろしいのは発疹チフスなどの伝染病をシラミはバイ介をするのです。
学校では女の子へ重点的にするシラミ退治は、衣服を着たままで円筒形のシリンダーに柄のついた手押し噴霧器でDDT粉剤を体中にふりかけるのです。
髪の毛から背中に噴霧器のノズルを突っ込んで、クリクリボウズの男の子はかおだけが肌色で全身が真っ白になって女の子は手ぬぐいを姉さんかぶりにして髪の毛を覆うのです。
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