~団塊世代が育った里山から~
豪雪と貧困の戦い一
毎日降り積もる雪をカンジキで踏み固める道つけの作業で、街道はだんだんと高くなっていき、それに加えてカヤブキ屋根からの雪落としで積み上っていくのです。
馬の背中のような細い尾根になった街道から、杉の皮ふきのゲヤ「下屋」を目の高さに見ながら玄関に向かって、滑り台のようにケツゾリ「尻滑り」で滑り落ちて家に入るのです。
街道に積み上げた雪の尾根はアップダウンが激しくて、往来する人たちが家の二階と同じ高さを、ヨチヨチと不安定に歩くことで今年の大雪を再認識するのです。
玄関に滑り込んで家にはいると、建て坪の何割かを占めるベト「土」を平らに突き固めたダイドコ「土間」のぬくもりと、ヨロリでマキが燃える音を聞くと何となく安心感が込み上がるのです。
伝統的な道具のチョウナ「柄付きカンナ」で削った、亀甲模様が定間隔で並んだ美しく黒光りする大黒柱は、雪の積もった屋根のグシ「棟」を重そうに支えているのです。
ダイドコの片隅には、厳しい寒さをしのぐ燃料のボヨ「柴木」にスギッパ「杉の枯れ葉」のたき付けが束になって積み重ねてあって、脇には割ってないクイゾ「丸太」がそろった長さに切って山積みになっているのです。
玄関から遠い奥には、一段低くなっているマヤのマセンボー「仕切り棒」のあいだから長い頭を出した馬が、薄暗いマヤで空になったカイバオケ「飼料オケ」を鼻で突っつきながら、カイバを欲しくて人の姿を大きな瞳で追っているのです。
家のなかでだいじに飼う牛馬は春になって始まる農耕のパートーナーで、稲ワラやフスマを与えて、家族同様でひとつ屋根の下に同居生活をするのです。
低い天井のダイドコは中二階になっていて、飼料の稲ワラや豆ガラなどが保存してあるのですが、稲ワラは飼料として牛馬に与えるばかりでなくてマヤの敷ワラに使い、牛馬に踏みつけさせてフン尿と混ざり合い良質な堆肥になるのです。
堆肥は畑や田んぼへ撒いて、貴重な有機肥料として野菜やコメを育てたあとは、ひよくなベト「土」になって里山の大地にかえるのです。
稲ワラはいろいろと利用価値がいっぱいあって、建材としてカヤブキ屋根の断熱効果が高い下地や、畳の心材に使って床下の冷気を防いでくれるのです。
農作業や生活に利用する稲ワラは、ワラむしろを二つに折って縁をとじたカマスで収穫物を入れて保存したりして、スベ縄「ワラ縄」をナッテ「よって編む」ロール状に巻いてさまざまな物を縛るのに使うなどで、稲ワラは農家の生活と農作業には絶対に必需なのです。
稲の穂から米を脱穀精米した白いご飯を食べて、脱穀で出るモミガラは燃料に使って精米で出る小ヌカはツケ物の材料や飼料と肥料になって、いろいろな物にうまく利用して捨てるところがない稲をだいじにするのです。
ダイドコの長いアガリハナ「上がりガマチ」に腰掛けて家のなかを見回すと、外周りは雪にスッポリと埋もれてあかりが射さない薄暗い茶の間に、白い傘の裸電球がヨロリの煙のなかでボーっと妖しくともっているのです。
天井を見上げるとカヤブキ屋根裏には稲ワラがむき出しで、恐竜のアバラ骨に見えるハリ組みの丸太にスベ縄で縛ってススで黒ずんでいるのです。
天井の稲ワラとカヤや丸太に防虫防腐のために煙を充満させるのに、ヨロリでは大きなトッコ「木の根」からチョロチョロと赤い舌に見える炎が燃えているのです。
ヨロリの中央に天井からつるしたカギツケサン「自在鍵」が下がっていて、ススで黒光りした鋳物のテビショ「鉄瓶」から湯気が立ち上っているのです。