~団塊世代が育った里山から~
里山の学校三
木枯らしが運んできた落ち葉が校庭で乱舞していて、土を盛り上げる霜柱をサクサクと音をたてながら、木造校舎のなかへ子供たちはゾロゾロと背中を丸めて急ぐのです。
冷気がよどむ廊下で両手をこすりながら足早に教室へ入ると、机へ落ち着く間もなく校内放送がピンポンパンポンと鉄琴のチャイムが鳴ったあとに放送をする子供が緊張した声で、「お知らせします、本日は朝礼があります、講堂に集合してください」と教室に流れるのです。
冷え切った講堂に白い息をはきながら集まって学年クラスごとに並び、ステージに旗立台に斜めに差したフリンジと金モールで囲んだ校旗が立っている真ん中に、大きな日の丸の旗がシワのひとつなくピンと貼ってあるのです。
全員が整列したのを見届けた生徒の代表が、「気をつけ」の号令がかかって緊張した姿勢でいる生徒の前に出た音楽の先生が、「サンハイッ」で校歌を歌った後に学校長がステージに上がるのを待つのです。
三つそろいの背広にキチンとネクタイを締めた学校長が、立派なヒゲをたくわえる赤らかおで演台の前に立ってユックリとかおを左右に振って子供たちを眺めまわした後に、「エッヘェ~ン」と大きくセキ払いをしてから話が始まるのです。
ひびきわたる大声は決まりきった話で終わりなのですが、不祥事があったりすると話が長くなって、冷たい床板の隙間から入る冷気で霜焼けの指がかゆくなるのです。
季節は暑い夏に変わって、炎天下のジリジリと白い太陽が射す校庭の朝礼は、イガグリ頭に直射日光が当たって長時間立っていると頭がクラクラとしてくるのです
日焼けした体に丸首シャツとタンパンをはいた男の子は、額から吹き出る汗を両腕交互に使って拭き、女の子の着ている白いブラウスの背中は汗でぬれているのです。
季節の寒さ暑さの学校生活で体育の時間や運動会で、子供たちが突然にバッタリと倒れたり具合が悪くならない自然児は、普段から天気が良ければ野山を飛びまわって四季の気候に順応する体になって、虫や鳥を追いかけ川魚を追いかけて体力がついているのです。
学校給食の開始が遅れている里山の子供たちは、アルミ製の大きな四角い弁当箱にご飯を山盛りに詰めてもらって登校するのですが、世の中には物がなくて入れるオカズに母親は苦労するのです。
オカズが入っていない白いご飯だけの子供もいれば、コメだけの消費を防ぐのに安価な麦を多く混ぜたご飯が黒かったりして、梅漬けが入った日の丸弁当は梅の酸でフタの真ん中が溶けてボロボロでご飯が透けて見えるのです。
貧しい弁当を持ってくる子供たちの教室では、昼を知らせる用務員さんの鳴らす手ぶりのベルの音を聞いて先生が教室を離れると、みんな一斉に古新聞紙に包んだ弁当を机の上へひろげるのです。
みんな似たようなオカズの弁当なのに、なぜか包んできた新聞紙や弁当のフタを片手で立て、周りの子供がのぞかないように隠して食べているのです。
貧しい弁当が恥ずかしいと思っている傷口に塩を塗るように、堂々と弁当を広げて食べている裕福な子供は、卵焼きや焼き魚の入った弁当を見せびらかすのが嫌なのです。
育ち盛りでおなかの空くお昼ご飯は楽しみのはずですが、家庭に事情があって複雑な思いをしなければならない子供もいて、母親に弁当を持たせてもらえないので昼ご飯になると真っ先に教室を飛び出して行くのです。
校庭や講堂に出てきた子供は、蛇口へ直接に口をつけてガブガブと水を飲んで空腹を満たし、弁当を食べ終わった子供たちと仲良く遊ぶのです。
冬になってダルマストーブの周りで弁当を温かくすると、タクアン入りの弁当は臭いが教室中にたちこめて、だれかがクスクスと含み笑いをしたように聞こえた気がしたのですが、だれの弁当にもタクアンが入っているはずなのに、自分だけの弁当から匂ってくると勘違いして一人で恥ずかしい思いをするのです。
厚く切ったタクアンを勢いよくかむと、ボリボリと音がするので教室中のみんなに聞こえている気がして、家でタクアンを食べるときは大きな音でボリボリと食べているのです。
音をさせて食べると周りが気になってしまい、かみ方もユックリと音をさせないで細切れにして食べるのです。
音をさせないように細心の注意を払ってタクアンを食べていても聞こえたのか、前の席のオカッパ頭がかわいい女の子が肩越しに振り返って、ニコッと頬を緩ませる意味の不明な笑みを浮かべたすぐに髪を揺らして前を向き弁当を食べているのです。
振り返って見られた男の子は恥ずかしくてかおが赤くなるのが自分でもわかって、タクアンをかむのを途中でやめて慌ててご飯と一緒に丸ごとのにみ込み、残っているタクアンを食べないで白いご飯だけをのみ込むのです。
いよいよ里山の学校にもやっと給食が始まって、コッペパンと脱脂粉乳にオカズが一品付くだけの給食ですが、タクアンや梅漬だけのご飯の弁当から解放したのが一番にうれしいのです。
午前の授業の終わりを告げるベルの音を聞くと、白いエプロンをかけた給食当番の子供たちはイソイソと真新しい給食室へ行って、ガラス戸前のカウンターに何年何クラスと書いたバケツに入っている脱脂粉乳と、ショッパイ「塩辛い」コッペパンとオカズだけの給食を取りに行って準備を始めるのです。
ポリプロピレンのおワンに注ぐ脱脂粉乳は、時間が過ぎると表面に膜が張って生ぬるくまずく、先生と一緒に向かい合って同じ給食を食べていて、残すと叱るのでガマンをして一気に飲みほすのですが、飲み慣れない異国から来た味気のない脱脂粉乳は飲みづらいのです。
薄っぺらな丸い食器にワラ半紙を敷いた上に置いた硬くてパサパサで塩味のコッペパンと、銀紙に包んだマーガリンにボリュームのないオカズの給食が始まったのです。
給食はまだおいしいと言えないのですが、子供たちの大好きな肉は食べることがなくて代わりに鯨肉が貴重なタンパク源として給食に出てきて、衣をまぶして揚げた竜田揚げは軟らかくてくせがなくて人気なのです。
みんなで同じものを食べることのできる楽しい給食が終わると、給食当番は食器と残り物を給食室まで運ぶのですが、余った脱脂粉乳を乱暴に扱うと飛び跳ねて服にかかって乾くと変な匂いがするのです。
団塊世代の子供のなかにはさまざまな事情があって、登校するのを嫌がって泣いて親を困らせる子供や、具合が悪くないのにウソを言ってズル休みをする子供がいるのです。
学校を休んだ子供の家に、近くに住む子供が給食のコッペパンを半紙に包んで届けに行くと、本人は意外とケロッとしていて元気に遊んでいることが多いのです。
親が貧しくて給食費の徴収日にお金の都合ができないことや、授業で使う教材が買えなくて学校に持っていけないことが、友だちとの間に葛藤が生まれて心に大きな負担となってしまい、登校する直前におなかが痛くなったりしたり熱が出たりするのです。