~団塊世代が育った里山から~

里山の学校七

森から吹く風が若葉の香りを運ぶ季節になると、子供たちが楽しみにしている遠足の日程が先生から発表があるのです。
低学年の遠足は運動しやすい服装で校庭に集合して先生が引率して、学校の近くの田んぼや畑にいって草花をスケッチして、中学年になると少し遠い集落へ砂利道をゾロゾロと連なって歩きオニギリを食べて学校に帰ってきて、高学年は普段は乗れないバスや汽車に乗って、町のデパートや名所旧跡を訪ねてくるのです。

持って行く弁当は定番の梅干しが入ってノリで包んだ真ん丸オニギリと、オカズは一本そのままの魚肉ソーセージと一緒に酸っぱい夏みかんが丸ごと一個入っているリュックサックを、小さな背中に腰まで垂れ下げて背負って行くのです。
道端に名前の知らない野草が咲く長い道のりを歩いて行くと、太い蛇がニョロニョロと行列の前を横切ったり、子供たちが歌う声にビックリしたキジが草ヤブから飛び上がったりするのです。
遠足の途中で大雨と雷にあって、雨具のカッパを買ってもらえない子供は全身ずぶぬれになって、服のソデからシズクを垂らしながらトボトボと学校に帰ってくるのです。
目的地にたどり着いて楽しいお昼の時間は、草野原の上でみんなが丸くなって腰を下ろして自然の空気なかで、オニギリをかぶりつく時のおいしさは何とも言えないのです。
木々に咲く花や草花や美しい景色を眺めて食べるオニギリは、心やおなかを満たしてくれる母親の優しさを思うと、子供心にジィーンとくる切なさが込み上げてくるのです。

長雨が降り続いた梅雨が終わって開放的な夏になって、夏休みと言う言葉を聞いただけで心がウキウキとして一年で最も楽しみにしている休みで、あさから夕方まで友だちと一緒に山や川で冒険の遊びができる日々なのです。
かおも体も真っ黒に日焼けして駆けまわり冷たい川に入って魚を捕ったりして、森のウッソウとしたなかで虫や鳥を追いかけまわし、夏祭りの神社に並ぶ屋台をのぞいて買い食いやオモチャを買って遊ぶのです。
真っ青な空でギラギラと照らす真夏の太陽と、モクモクと湧き上がる入道雲から急に雨が降った後に晴れてむっとする夏草の匂い、ジィージィーとうるさく鳴くセミの声と一緒に飛び回る子供たちは、すべてが楽しいことだらけの毎日が過ぎる夏休みなのです。

夏休みの日課は起きたらかおも洗わずトリ小屋にいって、ニワトリがあちこちに産み落とした卵を拾い集めてまだ暖かい卵を炊き立ての山盛りご飯にのせ、黄身の盛り上がった真ん中にショウユをかけた卵ご飯をかきこんで街道を走ってラジオ体操に行くのです。
朝霧が低く流れて涼しい庭先で、ラジオから流れる「全国のみなさん、おはよう~ございます」というアナウンサーの声に合わせて子供たちも「おはようございます~」と、窓から引っ張りだしたラジオに向って全員が頭を下げるのです。
首から体操カードをぶら下げていて、体操が終わると少年団の団長がカードの日付欄にスタンプを押してくれて、一日も休まないで体操カードの欄がスタンプで赤く埋まったら夏休み終わりに先生へ提出をすると鉛筆やノートがもらえるのです。
あさから子供たちが集ってするラジオ体操は、リズムのいい音楽と掛け声にサラサラと流れる水路の音と小鳥のなき声が家のなかまで聞こえてくるのです。

緑の輝きがおさまる夏も終わりに近くなって、ツクツクツク ボーシ ツクツクボーシとセミが鳴き始めるお盆が過ぎたころの子供たちは、夏休みの宿題を思い出して慌てて夏休み帳といくつかの課題に取り組むのです。
なかに宿題を終わらせるには時すでにおそいと開き直って、残りわずかな夏休みを悔いのないように過ごしたい考えの方が勝って、宿題を提出すれば先生が怒るのは想像できてその時は前に立ってまじめなかおつきをして黙って下を向いていれば、時がたって怒りがおさまれば終わりになると先をよむのです。

夏休みにする生徒会からの課題があって、野山から薬草を採って乾燥させてから夏休みの終わった日に学校に持って行くのです。
ジリジリと照り付ける暑い日差しのなかを、お得意の野山の草ヤブを駆け巡って薬草を見つけようとするのですが、近所の年寄も民間薬として常に服用するので多量に採ってしまい、子供たちは提出する規定量を確保できないのです。
乾燥をさせた薬草を種類ごとに縄で縛って持っていくと、講堂のなかは薬草の匂いが充満していて隅に積み上げてあるのを、製薬会社がボンネットトラックで買いにきて高く積み上げて運んで行くのです。
夏休み中に一生懸命採った薬草を売ったお金は、子供たちの生徒会の資金になっていろいろに使うのです。
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