~団塊世代が育った里山から~
里山の学校八
中学校で最大の行事である修学旅行は、団塊世代の子供たちが憧れの東京へ名所旧跡を見学に行くのが圧倒的に多いのです。
修学旅行は宿泊を伴う見学や研修教育の一環として行われ、旅行代理店に丸投げでなくて何カ月も前から先生が、宿泊予約から列車やバスの手配と旅行行程を企画するのです。
子供たちを安全に電車やバスに乗せて、名所旧跡の入場券や乗車券などで発生をする費用の支払いをする先生は、出発前から考えると心労がこの上ないのを想像できるのですが、楽しみにしている子供たちを見ているとガンバル気持ちになるのです。
親からは、「東京 セウ トコハ エッセナトコデ エキテル うまの メンタマ を ヌグホド の オッカネェ ソダカラ 先生の シャベルコト や セウ ことを ヨグ ケエテ ギイヅケテ エッテグンダド」と、憧れている東京に水を差すようなことをいって心配してくれるのです。
待ちに待って楽しみにしていた修学旅行の当日は、停車場の広場に集合して全員が整列をしたら学校長から注意を聞いて、駅員さんに改札場で人数を数えてもらってプラットホームに出るのです。
蒸気機関車はまるで人が息をはくかのようにボォッ~ボォッと太い煙突から黒煙を吹き出している、国有鉄道の真っ黒な客車を連結した列車なのです。
ピィ~と短く汽笛を鳴らしてシュッ~シュッ~ガクンガクンと大きな車輪がゆっくりと回り、全く体に加速感がなく徐々にスピードがあがってきて、列車の窓から見慣れている停車場の景色から離れていくのです。
客車に据えた木製の座席は群青色した薄いクッション材がかぶせてあって、背もたれは直角で硬くて長く座っていると尻が痛くなるのです。
駅を出発して終着の上野駅までの長い時間を列車に揺られながら、まだ見ない大都会への期待で子供たちの心はワクワクしているのです。
東京に向かう途中の碓井峠は急勾配なので、軽井沢駅で長く停車をしてアプト式蒸気機関車と機関車の二連結で峠を越え横川駅に向かうのです。
軽井沢駅に停車をすると、狭い列車のなかに長い時間を座り続けていた子供たちや先生は、慌てて列車のデッキからプラットホームに飛び降りて、腰を伸ばしてお尻の痛みを癒やして峠の冷たい風にあたるのです。
急坂を登り降りする峠の線路は、歯車とレールに設置した歯車をかみ合わせながら走って、連結した客車はガァツンガァツンとしがらユックリと峠を登るのです。
碓井峠をこえるにはトンネルが二十六本とレンガ造りの橋りょうが十八の橋があって、トンネルを抜けると橋りょうでまたトンネルでその先がさらにトンネルが続いて横川に着くのです。
列車はトンネルの手前でピィーッと汽笛を鳴らすので、その都度分厚いガラスを囲った木枠の窓を上下で開閉するのですが、タイミングが合わずにうっかり窓を開けたまま列車がトンネルに入ると、石炭を燃やす黒煙やススが客車に流れ込んで、かおや白いワイシャツを黒く汚して目がゴロゴロと痛くなるのです。
列車は峠をこえていよいよ関東平野の端に差し掛かって、車窓から見る景色は、里山では見ない広大な畑の風景と密集した家並みなのです。
長い時間を列車に乗ってやっと着いた大都会は、テレビや雑誌で見て想像していて憧れた東京そのもので、里山から日本の中心に出て来たことに強烈な思いを持つのです。
都会の何もかもが新鮮に映る子供たちは、日ごろ見ることのない空に高く建つビル群や交差点でオシャレな女の人が着飾って楽しそうに話をしていて、男の人は背広を着こんだ格好の良さで忙しそうに歩く姿に感嘆するのです。
広々した真っすぐな道路に途切れなく多くの車が往来していて、ビルの間を縫うような高架橋の上を目まぐるしく次から次と走ってくる電車にビックリするのです。
クラスごとの担任が引率する子供たちは、真新しい学生服やセーラー服を着て「よそ見ばかりして迷子にならないように」と注意を受けて、初めて乗る山手線へ行列をつくって改札口へ向かうのです。
先生を先頭にしてゾロゾロと歩いて着いた皇居前広場は、天皇の住む威厳のある美しさあふれる皇居に感動して、広い皇居前広場一帯はゴミ一つも落ちていなくて枝ぶりの良い黒松と芝の緑の美しさにビックリするのです。
お堀に映る二重橋を背景に、修学旅行用に置いた撮影台に座ったり立ったりのお決まりの一糸乱れず整列して、肩を触れ合いながら神妙でまじめなかおで記念写真を撮るのです。
皇居前広場一帯は広くて清らかな感じがして、散歩道やズ~と並んだ白いベンチはロマンティックな雰囲気をかもし出していて大都会に来たのだと感じるのです。
まだ新しい観光名所の東京タワーに登って東京を上空から手に取るように立体的に見ることで、初めて乗るエレベーターに不安と好奇心の気持ちがイッパイのところに、ドァーが開いて押し合いしながら慌ててのり込むのです。
乗り込んだ安心でフットかおを上げた瞬間に、目の合ったキレイな女の人がいて一瞬ヒルンで再び目を伏せるのです。
キチンと制服を着て案内やボタン操作をするエレベーターガールだと気が付くと、さらに緊張と興奮で頭がボーとして田舎臭い女の子と違う美しさとしぐさに見とれているうちに、東京タワー大展望台に着きゾロゾロとエレベーターを降りるのです。
大展望台から大都会を見下ろすと、建物や人が小さく見えて広く感じた東京も小さな町にしか見えないので、日本は狭い国土だと展望台からの風景を見て感じるのです。
銀座の三越デパートへ見学に向かうのに降り立った有楽町駅は、フランク永井が歌ってヒットした「有楽町で会いましょう」の歌謡曲を思い起こして、「あなたと私のあいことば、有楽町であいましょう」の歌を唄いながら自分が描いて想像した通りの街で間違いがなかったと思うのです。
人ごみのなかの有楽町に居るのだと実感すると、急に大人になった気がして学校を卒業したら東京に出て来たい思いになるのです。
三越デパートの正面玄関前でライオン像が出迎えてくれるのですが、周りには待ち合わせをしている多くの男性や女性が腕時計をチラチラと見ているのです。
東京での名所旧跡見学の予定がイッパイの子供たちは、相変わらず整然と並んでバスや電車に乗り継いで街を巡りながら定番のお上りさんルートの一日が終わるのです。
夜も明るくてにぎやかな東京での一泊目は、上野公園の近くで修学旅行専門の大浴場といくつものトイレがある大きな旅館に泊まるのです。
先生も子供たちも広い食堂で一緒に食べる夕食は、今までに食べたことのないオカズが何品も出て、こんなにおいしい物がいつも食べることができるなら東京に来たいと再度思うのです。
風呂に入って寝る部屋には最初からふとんがズラァ~と並べて敷いた大部屋で、築地市場で見たマグロのように頭を並べて寝るのですが、東京で一日を過ごした興奮と見学した風景が目に焼き付いていてなかなか眠れない夜を過ごすのです。
東京の名所旧跡を巡って二泊目の宿は、横浜の異国情緒が漂う街並みの山下公園波止場に係留している、北太平洋の女王と呼んだ氷川丸という大型客船なのです。
修学旅行に誘客をするキャチコピーに横浜で全室ベツト仕様、という高級感のあふれるニュアンスの宿泊施設のふれこみなのですが現実は違っているのです。
部屋はキャッチコピーに勘違いした豪華なベツトでなくて、一室八名の細くて長い部屋の両脇に備え付けた二段ベツトが並んでいて、農家の二階にある蚕棚と同じだと感じて故郷を思い起こして、居心地の良くない狭い棚のベツドの上で再び眠れない夜を過ごすのです。