~団塊世代が育った里山から~

豪雪と貧困の戦い六

次男が帰りたかった家に戻った翌年の冬は、学校のスキー大会が畑の斜面を利用して毎年に行われるのです。
 お下がりでもらったスキー板は、イタヤやナラの硬い一枚板を削ってお湯の熱で先「トップ」を曲げて造ってあるのですが、片方が折れてトタン板を巻き修理した不格好なスキー板なのです。
足を固定する金具はフィットという締め具で、爪先を皮ベルトと金具のあいだに突っ込んで、カカトもベルトで長靴に締めるのです。
つえ「ストック」の材料は竹で、雪に深く刺さらなくするワッコ「リング」は藤ヅルを輪にして、皮ひもを編んで竹と連結しているのです。

普段学校へ行くときは、手袋や靴下を着けなくても冷たさをガマンすれば乗り切れるのですが、スキー大会の予行演習で滑って何度も転ぶと、起き上がる時に手袋のない手で直接雪に触れる冷たさで、ストックを握る手がカジカンで持つことが厳しいのです。
スキー大会当日は学校へ行くのが嫌でいやでズル休みをしたいのですが、雪の冷たさは予行演習と同じようにガマンで克服しようと自分に言い聞かせて、手袋と靴下を着けずスキーとストックを担いで登校するのです。

家で相変わらずふせっている父親のところへ、「具合はどうですかぁ~」と週に一度で往診にお医者さんと看護師さんがやってくるのです。
母親が看護師さんと世間話のなかで、「天気が エエグ ナッテ ヨカッタワネ オジ は スキー大会に エッタケモ テンキエエクテ アッタケェスケ 手袋や靴下 ナグッテモ チビタク ネエダロナ」と、次男が手袋や靴下を着けていないのを話すのです。

スキーを滑るのに手袋のない子供の可哀そうな話を聞いた看護師さんが、たまらなくなって自分が着けていたピンクの手袋を母親に差し出して、「これから エゲバ スキー大会に エグ 子供の行列が○○を通る スケ マッテエテ これを ヤンナイヤ」と母親にくれたのです。
次男の手を冷たい思いをさせずにすむうれしさの母親は、慌てて父親の治療も終わらないうちに家を飛び出して、デコボコした雪道を滑りながら○○の角で無事に行列のなかから次男を探し出して、「○○チャン ほら手袋をして エギナイ」とピンクの手袋を渡すのです。

学校からスキー板を担いでゾロソロと歩いて母親から手袋をもらって、次男は人の優しい心と暖かい気持ちに触れて感謝の気持ちがイッパイになるのです。
看護師さんからもらった毛糸の手袋は暖かくて真にうれしいのですが、スキー大会は次男の心に冷たく押し寄せるいやな思いが待っているのです。

晴れ渡った青い空の下で坂の上からテープの張ったゴールに向かって滑走をする滑降レースでは、トタン板で修理したスキー板がまた折れて転んでしまい、おおぜいの観衆のなかチンカタ チンカタと片足スキーでゴールをするのです。
リレーのレースで折れたスキー板は、雪に刺さって走ることが難しくて競争相手の子供たちから大幅に遅れて、今来るかと待っているタスキを渡す次の子にヒンシュクをかうのです。

スキー大会は子供たちの親が応援にきてくれて、お昼の時間になるとお尻がぬれないように雪の上にゴザを敷いて、作ったごちそうの弁当を楽しそうに親子で食べるのです。
父親も母親にも来てもらえない次男はスキー大会の会場から少し外れた、一本杉の根もとが早く雪が消えて枯れ草が見える根明けの場所を見つけて、応援に来た家族をうらやましく見ながら一人で惨めな思いで冷たくなった粗末な弁当を食べるのです。
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