S系御曹司と政略結婚!?
疑問符だらけの思考が表情にも表れていたのか一笑された挙げ句、こう付け加えた。
「こんな楽しいおもちゃ、そう易々と手放すと思うか?」
「ふっ、ふざけないでよっ!貴方のせいで、私は……っ」
「私は、なに?」と、こちらの立つ瀬をどんどん無くしていく。
再びぽろぽろと涙が零れ、何も反論できずにいる自分の非力さをまた思い知るだけ。
パチパチと瞬きを繰り返し、頬をゴシゴシと強めに拭った。そう、ここでただ泣いてはいられない。
同意が貰えないのなら強行突破するのみ!睨みながら顔を上げたものの、ヤツの喜悦に満ちた眼差しにまた苛立ちが募る。
「とっ、とにかく!私は絶対に反対っ!婚約は断固阻止するからっ!」
床に置いてあったバックを乱暴に掴むと、負け犬めいた台詞を吐き出しながら部屋を後にした。
ドタドタ、と日本庭園に面した廊下を足音を立てながら、息勇んで道なりにひとり歩く。
消化不良な気持ちが悔しさとやり切れなさを呼び、止まったはずの涙が頬を伝っていた。
おかしいのよ、お父様達もあの最低最悪男も!結局、私の気持ちなんて蚊帳の外なんだね。
ありふれた日常を諦めてもまだ足りなかった?自分で幸せを求めることすら駄目なの?
一般家庭に生まれていれば……なんて、たらればの話だけど。
好きな人と結婚することがこんなにも難しい。頭では理解していたはずなのに、現実のものになるとやっぱり受け入れられない。
もうそれしかすがれる夢がそれしかないのに、どうしてひとつとして許されないの……?
「華澄お嬢様!?」
お店の玄関先で鉢合わせた女将さんが驚いて駆け寄ろうとした。だけど、今はそれさえ構う余裕はなく、ただひとりになりたかった。