あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ
「そんなこと、俺は知らん」
「だって、教育を均一化させるんだったら、どうしてオーソドックスな内容じゃなくて、特異な内容にしろなんていうのよ」
「さあな」
「んん……さあな、じゃなくて。ほら、エリート君、考えてよ」
「お前こそ、俺の上司だろ」
「こういう時だけ、上司って言わないでよ」
――いらっしゃい
店番のおばあちゃんの声がして、客が一人入って来た。
客は、二人しかいない店の窓際の席に座るとコーヒーを注文した。
背の低い、初老の紳士だった。
「ああ、社長だ」
私は、立ち上がって挨拶すると、社長の方も「今晩は」と言って答えてくれた。
「おい、社長ってなんだよ」
国崎君が、目が点になってる。
「あんた、自分の会社の社長も知らないの?」
信じられないって手振りをする。
「いや、知ってるけど。普通、こういう時って話しかけねえだろう」
「どうしてよ。目の前に社長がいるのに、無視する方がおかしいでしょ」
「いやいやいや、なに言ってんの、止めろって」
「そうだ。聞いてみよう。国崎君前に、経営側の意見聞いてみないと分からないって言ってたよね」
「いや。俺社長に聞けなんて言ってない」
頼むから、余計なこと言うなよ。
国崎君は、散歩に行きたがらない犬のように、踏ん張って動かないでいる。