夜の甘やかな野望
「そうそう、二番目の兄なんて稽古の帰りに公園に寄ってね。
夏だったんだけど、セミが孵化するために地上に出てきたのを捕まえて、ケースに入れて帰ってきたんだよね。
あ、バイオリンはそのまま公園に放置ね。
10匹ぐらいいたかなあ。
父親が情操教育だって、リビングの観葉植物につかまらせて、一晩、孵化するのを眺めたんだ。
楽しかったな」
嬉しそうに眼を細める。
「それで朝、3人で虫取り網をもって、部屋の中でセミを追い掛け回した」
その状況を想像すると、全然楽しくないが。
どっちかというとあんまり想像したくない。
セミって目が離れていて、顔が結構グロテスクだと思う。
でも目の前の本人は楽しそうだ。
「倫子さん、虫嫌い?」
「嫌いってか・・・好きじゃない・・感じ?」
「まあ、女性はそうだよね」
宗忠は少し表情を落ち着かせた。
がっかりさせたかもしれない。
音楽も虫の話も乗れなくって。
倫子はしばらく黙々と食べていた。