夜の甘やかな野望
そして駐車場への小道の入り口で宗忠は立ち止った。
「きれいだね」
倫子も足を止めて視線の先を追った。
「流れ星みたいだ」
向かい側の山裾を、コンサートから帰る車のヘッドライトが暗い森の中、流星群のように右から左へと流れて消えていく。
今日の宗忠はずうっと物思いに沈んでいるようだった。
「じゃあ、願い事をしないと」
らしくないとわかっていながら、倫子は明るい声で乙女なことを言ってみた。
「願い事かあ」
笑われなかったが、自嘲気味の声が返ってくると、しばらく無言だった。
「こういう風にバッハを聞くと、システィーナ礼拝堂の最後の審判を思い出すんだよね。
まだ小さかったけど、衝撃だったな」
目を向けると、宗忠の横顔は穏やかな微笑だった。