鬼上司は秘密の恋人!?
祐一の希望どおり、石月さんは私達を温泉へ連れて来てくれた。
日帰りだと思っていたら、箱根の旅館に部屋を取り、一泊させてくれるという。
初めての旅行に、初めての特急列車に、初めての温泉旅館。
初めて尽くしの一日に、祐一のテンションは上がりっぱなしだった。
はしゃぐ祐一をうるさがることもなく、優しく見つめる石月さん。
仕事中とは違うリラックスした表情を、窓から照らす日の光がチラチラと照らす。
思わず見とれていると、私の視線に気づいた石月さんがこちらを見て「ん?」と小さく首を傾げる。
慌てて視線をそらして俯くと、「腹でも減ったのか?」と笑われた。
「ちがいます」
ふてくされると、祐一がリュックから飴を取り出しひと粒私にくれた。
「あげる。とくべつだよ」
私の口調を真似して言われ、苦笑いしながら「ありがとう」と受け取る。
祐一は笑顔でうなずくと、ご機嫌の様子でまた窓の外を眺める。
そんなやりとりを見ていた石月さんが、首を傾げた。
「そういえばお前、特別ってよく言うよな。口癖なのか?」
「口癖というわけではないですけど、そうやって自分に言い聞かせていないと、どんどん欲張りになってしまいそうだから」
小声で言うと、石月さんが軽く眉をひそめる。